Satan in his original glory
暗い獄の中、僕は一人で朽ちる時を待っている。
役人の審問も、尋問も、拷問すらもこの身には感じられない。
そう言えば、昨日の女性審問官は少しだけ好みだったな。
僕に跨ってひたすら腰を振っては、喘いでただけだけどさ。
達した時の声が好きだったよ。
ねぇ、あれからどのくらい時が過ぎたんだろうね。
いつも隣にいた君が、いなくなった時から。
教えてよ。
君に会いに逝くまで。
あと、どのくらいかかるのかな?
「お〜い、手合わせしようぜ!」
まだ薄暗い時間、大きな声が僕を起こす。
「おはよう。朝っぱらからそんなに大声出さないでくれないかな。近所迷惑だよ。」
障子を開け、外に出る。
庭をぐるりと囲む廊下は、ひんやりとしていて寝起きの肌には少し痛かった。
庭の真ん中に立つ大声の主をわざと無視し、水場で顔を洗う。
「オイ、テメー俺を無視するんじゃねぇよ。手合わせしようって言ってんじゃねーか。」
「朝の身だしなみは大切なんだよ、顔を洗わないなんて死んじゃうよ。」
顔を拭い、眼鏡を探していると、ヒョイと取り上げられる。
顎の下には彼の愛刀の白刃がきらめいていた。
「て・あ・わ・せ!」
「はいはい。本当に、朝から熱血だね。」
「五月蠅い、さっさと仕度しろ。」
「わかった、わかった。」
君が大声で僕を起こして、僕がわざと遅く仕度して、君がキレ始めて、僕がなだめて、それから手合わせ。
そんなやり取りが、毎朝の習慣だったっけ。
君と僕は永遠に一緒にいられると思っていたんだ。
それなのに、神羅の傘下にある軍に君は連れて行かれた。
魔光炉爆破計画首謀者として。
僕たちは、鍛冶師が鍛え上げた刀と太刀を使っている。
その刃を鍛え上げる炎は魔光と混ざり、業火となる。
飛び散る火花は、まさに一瞬の煌めきで星のように輝いては消えていく。
その一瞬を殊の外愛していた君が、魔光炉を、巫山戯た計画を起てるはずがないんだ。
僕は、君を助けるために、無我夢中で基地へと向かったよね。
敵を何人も、何十人も、何百人も斬り捨てて、君が捕らえられている所まで行ったのに……。
そこには全身から血を流す君。
敵の返り血を浴びて真っ赤な僕。
「、テメーおせぇんだよ…………。」
白い綺麗な肌に血を流して、それでも笑顔で憎まれ口を叩いていて。
「ゴメンな…………迷惑かけて。」
「何、馬鹿なこと言ってるのさ!人一倍血の気が多いくせに。ほら、帰るよ!」
血糊でズルンと抜けた腕に、もう助からないとお互いが思った。
笑顔の君が、声を出すこともままならない唇で紡いだ言葉が。
俺、もう助からないな……
だからさ、頼むよ
俺を楽にしてくれ
あの時の僕は、マテリアなんて知らなかったし、持ってなかった。
瀕死の君に僕が出来たこと、それは――。
「今、天国に連れてってあげる。」
君を楽にしてやれる事だけだったんだ。
ガシャン!
錠が外れる音がした。
カツーン、カツーン……ゆっくりとした足音がする。
暗闇と無音に近い世界に身を置けば、自然と感覚は鋭くなり、来た人数や歩調から性別も判断できるようになっていた。
足音は、僕の繋がれた獄の前で止まる。
きっと新しい審問官か何かだろう。
ふむ……
「君がか?」
久しぶりに囚人番号ではなく、名で呼ばれた。
暗い中で響くその声は、とても耳に心地の良い音だ。
声を発する男に少しだけ興味を持つ。
顔は見えないが、声からして年齢は四十代、落ち着いた雰囲気の中に獣性を持つ男だと感じた。
「そうだけど、何か用?それよりも、僕に名を聞く前に自分が先に名乗るのが礼儀じゃない?おじさん。」
いくら相手に興味を持てど、不作法は好みではない。
「それは失礼。俺の名はヴェルド。『タークス』という機関の主任だ。」
ヴェルド――そう名乗った男は、僕が『タークス』という物になる代わりに、僕の罪を全て無効にすると言った。
「『タークス』は、貴方は、僕に生き甲斐を与えてくれるのかな?」
男の中に潜む獣性と罪悪感に、同じ様な物を感じたから。
しばらく、側にいて観察してみるのも面白いと思った。
「生き甲斐かは分からないが、今よりましな場所なら与えてやる。」
獄から出された僕は、タークスとして働いている。
大切な仲間にも出会えたし、信頼できる上司にも恵まれた。
君は笑うかもしれないけど、とても好きな人が出来たよ。
じゃじゃ馬で我が儘だけど可愛いお姫様なんだ。
毎日が充実して君といた頃みたいだ――なんて思ったら君は怒るかな?
だけどさ、今でもこの手には君の首を落とした時の感触がはっきりと残っているよ。
君の愛刀だった村雨と共に。
新月の零様より8888clopおのキリリクいただきました
刀君でシチュお任せということで、タークス前の大暴れ投獄時代を書いてしまいました(リクなのにっ!)
タイトルの「Satan in his original glory」はウィリアム・ブレイクの絵画「昔の栄光に包まれるサタン」から
罪人からタークスへの転換は、まんま刀君の生き方じゃないかな?と(笑)
折角リクエストしていただいたのに、お言葉に甘えまくってしまって
いや、ホント重いの書いてしまってスミマセン(脱兎
珠璃様から頂きました!!
私、珠璃様の書かれる君、本当に好き何ですよ…!!
だからきり番踏んだら絶対君と決めてました!!
お忙しいのに有難うございます!