Are you strongest? ……Are you stronger than me?


平穏無事というのはいきなり壊れるのだろう。
「並盛中……ここか!」
黒髪に黒い瞳、それに決して安くはない服に身を包んだ少女が校門を潜った。
幸いなことに授業中という事も手伝ってか、殆どの生徒は彼女の来訪には気付かなかった。
最も、校門が丸見えの応接室からは彼女の姿は丸見えだったわけだが。
別に気にする事はない。
唯、誰かの身内が忘れ物を届けに来ただけだろう。そう、雲雀は踏んで再び机の上の膨大な量の資料に目を向けた。


「……イタリアとは違うのね。当然だけど」
職員室で沢田綱吉の名前を出してクラスを教えてもらい、少女は廊下を歩いていた。
元々、日本生まれという事もあるのか、労せず日本語をマスターした彼女はにっこりと微笑んで誰も居ない廊下を歩いていた。
時折聞こえる生徒達の声に耳を傾けながら、何も考えずに歩いていたせいだろうか。
ものの見事に迷っていた。
取り敢えず、目の前に湧いて出た扉をノックすると中からは「誰?」という声が聞こえた。
「Excuse me. Lose its way.」(失礼しまーす。道に迷っちゃってー)
イタリアで別れたボスからは、知らない人間と話すときは英語を使え、と教わった。
「What is it? Is it a student of what school?」(何?君、何処の学校?)
これには思わず彼女も面食らった。
流暢な、それもばっちりなアクセントで返事されるとは思わずに居た。
マホガニーの執務机の前に座って書類を書いていたらしい、その少年は彼女の姿を確認して口角だけをあげた。
「Oh, it is the child who went along a school gate a while ago.」(ああ、さっき校門を通った子だね)
「Yes, it is so. I want to go in …」(えぇ。行きたいところが…)
そこまで言って彼女は言葉を止める。
「…あ、考えたら学校じゃなくて家の方に居るんじゃないの?リボーン……」
いきなり聞こえた日本語に一瞬鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした少年の顔を見て彼女は手を合わせて謝った。
「ごめんなさい!」
「は?」
「……探してた人、多分家に居るんじゃないかなー……って思っちゃって…」
段々言葉が小さくなる。
「さっき道に迷ったって言ってたよね。ここから出ること、できるわけ?」
応接室は校舎の中で一番上に位置し、尚且つ判り難い構造になっている。
「……う」
「まあ、放課後までここにいれば?どうせ僕もいるしさ」
いるならさっきのところまで送れよ、という言葉を飲み込む。
「名前、聞いておかないと呼ぶとき困るよね」
。…
「雲雀恭弥。好きなように呼ぶといいよ。……よろしく、
にっこり笑った雲雀にも思わず同じように笑う。

カリカリと万年筆が紙の上を走る音が響く。
ソファに座り込んだまま、がゆっくりと視線を向ければ真剣な眼差しの雲雀が居た。
緩やかな温度になっている応接室の中にある唯一の音が単調な万年筆。
「恭弥」
「何?」
「恭弥は生徒なんでしょ?」
「そうだけど」
一度万年筆を置いて雲雀が書類を確認する。
「何で恭弥は授業でないの?」
「出ても意味ないし。
大体、ソレ言ったらは…」
「私はいーの。イタリアで大学まで出てるから」
それに。
小さくは呟く。
「日本に来たのはお使いだしね!」
「お使いで来るような距離じゃないと思うんだけど……」
少し呆れたらしい雲雀の言葉には大きく頷く。
「仕方ないんです。頼まれちゃったし。それに、気に入ったから暫く日本にいようと思って」
そこまで言って一瞬視線を外した雲雀の眼前に突きつけた書類。
それの一番上には「売買契約書」の五文字が並んでいた。
「へえ…中学の近くのマンションをねぇ」
「新築で綺麗だったんでつい」
ついっていう金額じゃないよ、これ。
ただ、ぺらりと契約書を捲って買主のところに書いてあった筆記体の名前が気になった。
どう見てもが名乗ったものとは違うから。
「…ねえ、放課後デートしようか」

To Be Continued