I love you even if I pass how many years


「あれ?沢田君」
「どうしたの?さん、帰り道、こっちじゃないよね」
中学を直ぐ出て声をかけられ、ツナは一瞬狼狽した。
「そうなんだけどねー。ちょっと今日は野暮用があってさー。お母さんにケーキ頼まれてんの!」
参っちゃうよねー。等といいながらツナの隣に並んだに少しだけ緊張する。
「そういえばさ、沢田君のところにアフロヘアの可愛い男の子、居たよね?」
「ランボの事?ランボが何かした!?」
違う違う、と片手を顔の前で振ってはそれを慌てて否定する。
ぴたりと立ち止まって鞄を開けると可愛いチェックの紙袋を取り出し、それをツナへと軽く放り投げて寄越した。
「何?これ」
「タマゴボウロ。貰ったんだけどー。私食べないから……って、御免!迷惑だよね」
「ううん、ランボ好きだと思うよ。有難う、さん」
「ならよかった!」
にっこりと笑う彼女の姿は。
噂されているような面影はなかった。
(…ま、あの雲雀さんと付き合ってるとか、どう考えてもガセだよな)
そのツナの言葉は次の答えで裏切られることになるのだが。
「これ、誰に貰ったの?」
「雲雀!参っちゃうよねー。自分が食べないものを人に寄越すなっての!!」
べーっっと紅い舌を出しては唸る。
付き合ってるの?という言葉を切り出せずにツナは狼狽した表情で小さな声で「そ、そうだね」と呟いた。
あの雲雀恭弥を呼び捨てにした挙句、そこまで言えるのは君だけだよ…とも小さく呟いて、ツナは自分の家の前で立ち止まった。
「じゃあ、俺ん家ここだから」
「うん、じゃあね!また明日!沢田君!」
手を振っては商店街の方へと足を進めた。
いきなり背後に響くバイクのエンジン音に僅かに身体を竦めてそっちを見れば不機嫌そうな顔で雲雀がバイクにまたがっていた。
「ふぅん、はタマゴボウロ嫌いなんだ。へーえ」
「な…何よ、雲雀!風紀委員長のくせに覗き見!?」
「覗き見じゃないよ。立ち聞き。今日ケーキ買いに行くっていうから送迎してあげようかと思ったんだけどね。……気が変わったよ、辞めた」
「えー。雲雀ってばー。ケーキ屋さんから家まで結構あるんだよー?」
くるり、と身体の向きを回転させては雲雀の前に立つ。
学ランに風紀の腕章をつけてむすっとしている雲雀は流石に怖い。
「大体、タマゴボウロ嫌いとは言ってないよ!」
「じゃあ何?」
「だってあれ、雲雀が女の子から貰った奴でしょ!そんなものは要らない!!
何で私が雲雀に片想いしてる子が雲雀にあげたものを処理しなくちゃいけないのよ!!バーカ!!」
「バ…!?」
「もういい!そうやって雲雀は誰かに何か貰ってればいいでしょ!でもその後始末を私に寄越さないでよね!!」
ツナにやったように、べーっと舌を出すとはむすっとした顔で再び身体の向きを変えて今度は小走りに逃げるように商店街の方へと走っていった。


「ただいまー……ケーキ買って来たよ、お母さん」
「ちょうど良かったわ、。田舎のおじいちゃんが入院したんですって。悪いんだけどお母さんもお父さんも帰れないからお留守番よろしくね?」
の父方の祖父母はが小さい時に他界している。余り遊んでもらった記憶がない代わりに、母方の祖父母には溺愛されて育った。
倒れたと聞いて思わずの息が詰まる。
「悪いの?おじいちゃん…」
「何てことないのよ。おばあちゃんがね、老人会の集まりに出てるときにぎっくり腰になった程度らしいんだけどね。年だから」
「ならいいんだ。……死んじゃうなんてこと…ないよね?」
不安そうに呟いてケーキの箱を冷蔵庫の中へ入れる。
「ぎっくり腰で死んだなんて話は聞かないからねぇ。とりあえず、入院はしてるみたいだから」
「そっか。気をつけてね、いってらっしゃい」
がちゃり、と鍵のかかる音がしてが制服のままソファに座り込む。
ソファに身体を沈めて目を瞑れば何故か走馬灯のように祖父の姿が浮かぶ。
テーブルの上に置いた携帯が振動を奏でる。
「もしもし?」
「……?僕だけど」
バイクのエンジン音に混じって聞こえる、雲雀の声に悪態つく。
「何?別にもう、怒ってないから!」
「そうじゃなくて。その件に関しては僕が悪かったよ。今、の家の近くなんだけど」
仲直りしよう?という雲雀の声に思わずが涙ぐむ。
「ハーゲンのアイス買って来てくれたら許してあげる」
「チョコクッキー?判った。すぐに行くよ」
ここにツナがいたら、あの雲雀さんをパシリに使って……。とでも思うところなのだろう。
直後、携帯の向こう側で何かが爆発した音が聞こえた。
「…雲雀!?ねえ、ちょ…っ」
嫌な予感が胸をよぎる。
雲雀はバイクに乗っていた。
嗚呼、まさか。
「ちょっと…ねえ、雲雀…!!?返事、してよ…!」
ざ、ざざ、と小さくノイズ音がする。
爆発に巻き込まれて携帯が何処かおかしくなってしまったとでもいうのだろうか。
慌てて家の外に出るとそこにはツナとランボと。そして白煙に包まれたバイクがあった。
「沢田君!!?」
さん!?」
「雲雀…雲雀は?」
「…?」
白煙が晴れ、そこに居たのは学ラン姿の雲雀ではなく。
「……誰…?」
「詳細は省くんだけど……御免ね、さん。全部ランボのこのバズーカの所為なんだ」
「そのバズーカで撃たれたからって何で雲雀が大人になっちゃってるの!?」
いつも見慣れていたのは学ラン姿の雲雀だった。
だから、こうしてスーツ姿で唐突に現れても違和感があるばかりで。
「10年バズーカっていって……撃たれた対象者は5分間だけ10年後の自分と入れ替わることが出来て…。
さんにタマゴボウロのお礼を言いたかったみたいで…。バイクのエンジン音にびっくりしちゃったみたい…」
「ああ、そうなのか…。御免ね、ランボ君。怒鳴っちゃって」
「で、もういいかな?
10年前とはいえ、僕の・・と群れてるとかみ殺すよ?」
ネクタイを指で軽く緩めて妖艶な笑みを浮かべながら雲雀が近づいてくる。
「雲雀!」
「何?
「今の発言から察するに…まさか…」
「10年後の事が知りたいの?…別にいいけど。今の発言で判ったと思うけど、結婚してるよ?」
「いやああああっっ!!」
「なっ。何、その拒絶反応!流石の僕も傷つくんだけど!」
「だってありえないでしょ!?」
右往左往するツナの隣でが雲雀のスーツを掴む。
「いつもいつも嫌がらせするし、勝手に机に入ってたりした女の子からの食べ物は私に寄越すし、ラブレターの返事は書かされるし、日曜日で何処か出かけようって言っても群れるのは嫌いだだの、たまにはメールが来たと思ったら今すぐ来いとか俺様メールだし!」
「…10年前の僕って確かにそんなかも」
眼前の雲雀は軽く溜息をついた。
「でもそれはほら、理由つけて呼び出せばは僕の傍に来てくれるっていう想いがあったからで」
何て言えば、伝わるのかな?と困った顔で雲雀は言う。
「寂しいだけなんだと思うんだけど」
「寂しいだけであれだけの事されてたら、たまったもんじゃないわよ…」
「でも、の喜ぶ顔が見たくて一生懸命タマゴボウロ買いに行ったり、するんだよ。この僕が」
ナルシストか、お前は。という言葉を飲み込んで、は大きな目をもっと大きくさせて「え?」と小さく呟いた。
「あの、それはもしや、あの可愛いチェックの袋に入ってた…」
「そう。が僕に片想いの女の子から僕が貰ったと思い込んでた、アレだよ」
さあああ、と血の気が引く。
「か、考えてみたらあんな可愛いチェックで男にプレゼントはしないわ…。しかも、雲雀に…。大体、プレゼントがタマゴボウロってのも…ねぇ?」
救いを求めるような目では雲雀を見つめる。
今よりもかなり身長の高い雲雀を上目遣いで見て、はどうしよう、と小さく告げる。
「謝ってみたら?……10年後のはそのことを忘れてるし、僕だって忘れてた。もし、10年前の僕が何かをにしてたら、高校卒業して直ぐに結婚なんてしないと思うけど?」
「……バーカって言っちゃったんですけど……」
言葉が小さくなる。
「大丈夫、大丈夫。僕が僕を言うのもアレだけど、僕って意外に単純だからさ」
そこまで言って時計を見て10年後の雲雀は時計を見た。
「ランボを連れて逃げたほうがいいよ」
あぁ、そうだ。絶対噛み殺されるよ。
そういうとツナはランボを抱いて走って逃げた。
明日は土曜日で明後日は日曜日。二日もすれば多分忘れる。
「……じゃあ、またね」
白煙に包まれて、目の前に現れたのは学ラン姿の雲雀だった。
「……牛柄のガキは?」
「知らないよ?」
そんな事より、と小さくは呟いて。
「えーと……あのね、タマゴボウロ、有難うね?」
「ああ……」
何のこと?という表情をした雲雀が納得したような表情をした。
「いいよ、別に。誤解するような渡し方した僕が悪かったんだし」
それより、と雲雀は言葉を続ける。
「珍しく奢ってあげるから後ろ乗りなよ」
「ありがと」
(……確かに雲雀は単純なのかも……)
ぎゅ、と手を前に回しては聞こえないようにくすりと笑った。

FIN





10年後の雲雀はカッコいいと思う……(笑)
ただそれだけ!(いい逃げ)

2006.8.3 up