There is no help for it. I love it.
「恭弥、居る?」
「…何?」
(う、機嫌悪いし)
応接室のドアを開けて目の前にあるマホガニーの机に座った雲雀がむすっとした表情で書類を片付けていた。
周りに風紀委員の姿が居ないところを見ると、真面目に委員会の活動に取り組んでいるのか、はたまた、機嫌の悪い雲雀の周りに居て被害を受けるのを嫌と判断したかのどっちかだろう。
何せ、間の悪いときに来たのは間違いないらしい。
「せ、先生がね、風紀委員会の報告書が出てないんだけどなー……って」
「それで?が取りに来たわけ?生徒会でもないくせに」
「だって…頼まれちゃったんだもん…」
はー、と溜息をついた雲雀の脳裏にはきっと教師に手を合わされ、頼まれて断りきれなかったの姿が浮かんでいるのだろう。
「お人よしすぎるんじゃないの?」
「……私もそう思うよ」
否定せず、肯定したに雲雀が思わず笑いをこぼす。
「そう思うなら断ればよかったじゃない。…先生がご自分でどうぞ、って」
(…無茶苦茶言うよ、本当)
過去何人かの教師がそれで撃退されているからこそ、あの教師はに頼んだわけで。
「だって…雲雀に頼めるのは私くらいしか居ないとか言うんだもん……」
「……へぇ?僕ってそんなに怖い存在なんだ?」
「無自覚だし」
「何か言った?」
「何も?」
むぅ、と少しふくれっつらになっているに一枚の書類を手渡す。
「持っていってあげれば?
一応委員長だからね。仕事はちゃんとするよ」
その仕事ってのは先生のところへ届けるまでが仕事なんじゃないんでしょーか。
怖いからそんな台詞は言ってあげないけど。
言ったところで、「向こうが取りにくればいい」とか言うに決まってるんだけど。
「兎に角、持って行っちゃうね?先生、待ってるだろうし」
「持ってったらまた戻ってきて。一緒に帰ろう」
「うん」
雲雀からそれを受け取っては応接室を出る。
校舎四階から渡り廊下を渡って職員室まで行って、往復しても精々20分足らずだろう。
それまでに片付けておける書類は総て片付けよう。
少し機嫌が直って、ゆっくりと書類に向き直った。
「失礼しまーす」
「お、!どうだった!?」
「これ、渡してくればって言われました」
若い教師はそれを受け取って「助かった!」とに手を合わせた。
別に褒められることじゃないです、と小さく言った言葉は聞こえてないのだろう。
「いや、本当に助かったよ」
どうして、この人はあの人が怖いんだろう。
確かに、トンファは振り回すし、群れてると狩るし。
「じゃあ、失礼します」
何となく居た堪れなくなってはその場を後にしようと職員室を出た。
(…怖い存在か、確かに)
遠くで「雲雀恭弥関連は全部彼女に任せればいいんですよ」とか「あの雲雀がああいう子と付き合うとは意外だが、こちらとしては助かりますな」という小さな声が聞こえた。
目の奥が熱くなる。
あの雲雀と付き合うのはそんなに悪い事ですか。
じんわりと涙が浮かぶ。
応接室と書かれたプレートが滲む。
力なく回したドアノブはあっさりとドアを開かせる。
「遅かったね」
「……恭弥と別れる。そんで、普通の男の子と恋愛する……」
「は!?」
ばき、と音がしたのは多分ボールペンが折れたのだろう。
たかだか30分の間に何があったというのだろう。
「私、恭弥との連絡係でも何でもないよぅ…」
「おいで」
危惧していたことがおきた、と小さく呟く。
抱き締めて子供をあやすように頭を軽く撫でるとソファに座らせる。
「何か言われたの?」
「私…恭弥と付き合っちゃいけないの?恭弥と付き合ってるから先生にパシリみたいに使われちゃうの?」
君がもう少し分別つかないガキだったら、そんな事疑問にも思わないんだろうね。
「僕が嫌い?」
「好きだから困ってるんじゃない!」
「じゃあ、阿呆な教師の言うことなんて放っておけばいい」
指を絡ませる。
「だけど……」
「……この僕が許さないって言ってるんだよ、」
いつもより、1オクターブは低いであろう声が応接室に響く。
何かする気だと判っても。
止められるわけがない。
「じゃあ、帰ろうか」
外に出たら満月が出ていた。
なるべく学校の事には触れずに雲雀は当たり障りのない会話を続ける。
「明日の朝、迎えに来るから」
「?
うん」
「えーと……八時過ぎね。バイクで来るから待ってて」
携帯で時間を確認して雲雀はそうに言う。
今までそんな事言われたことなかったのに。どちらかと云うといきなり朝窓が開いて、10分で支度しないと噛み殺す的なことしか言われてなかった気がした。
「一応来る前に電話はするから」
「あぁ…うん。
有難うね、恭弥」
「気にしなくていいよ」
それだけ言って踵を返す雲雀を見送る。
翌朝、ぼんやりとしながら制服に着替え、朝食を腹に詰め込んでぼんやりとテレビを見ていた瞬間、携帯が鳴り響いた。
「、アンタのドイツ国歌鳴ってるわよ!!」
「えー?……ああ、恭弥だ」
雲雀の手によって半強制的に携帯にアドレスと電話番号を登録させられた。それでも付き合い始めてから直ぐに一番好きな曲を指定の着信メロディにしたのだ。
「もしもし?」
『おはよ。流石に起きてるね』
「起きてるよ!」
『もうすぐつくから』
それだけ言って携帯はぶつっと切れ、ツーツーという音だけが残った。
10分もせずにチャイムが鳴って。
門の前にはエンジンの掛かったまま、派手な音を出しているバイクに跨った、雲雀が居た。
「おはよ」
そういった雲雀の手首や頬には絆創膏。
昨日の夜にはなかった。
「怪我したの?」
「ちょっと抵抗されたものでね。ほら、行くよ」
多分、あの後群れ狩りにでも行ったんだろうなぁ、くらいにしか考えずに、バイクの後ろに跨る。
以前、横座りしようとして本気で怒られたとき以来、必ず跨いで座る。
(……だってリアルな描写と怒気が怖かったんだもん……)
学校に着くと校門には風紀の腕章をつけた風紀委員が立っていた。
雲雀の出迎えなのか、それとも単に服装チェックをしているのか。
遠くから響くバイクの音に不穏な視線を向けていた委員達がその視線を前へと戻す。
これが雲雀じゃなかったら今頃は怖い目にあってるんだろうか。
「何か学校騒がしくない?」
「そう?気のせいだよ」
自転車置き場の一番ど真ん中に目立つバイクを置く。
「!!!」
「あ、だ。おはよ」
「おはよー……って違うよ。そうじゃないよ!!竹下先生と加藤先生、昨日暴漢に襲われて入院しちゃったんだって!!で、教師辞めるとか何とか言ってるんだって!!」
の後ろに居る雲雀の視線に気付いたのか、が「それじゃ、後でね!」と手を振って慌てて校舎内へと戻っていく。
「……恭弥でしょ……」
「言ったでしょ?『この僕が許さないって言ってる』って」
がちゃん、と小気味いい音をたててバイクの施錠をする。
「だからって…」
「を泣かせた。それ以上の理由なんて僕には必要ないよ」
教師を噛み殺せるのはアンタくらいだよ。
小さくが呟いて、雲雀と手を繋いだ。
FIN
教師を噛み殺すのは確かにアンタしかいねえよ…!!(バシバシ)
そのうち、この学校は誰もいなくなる気がする…(笑)
でも書いてて滅茶苦茶楽しかったんだよ……。
因みにドイツ国歌は私の携帯のハニーからの着メロです(笑)好きな人1名様はこの音楽。
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2006.8.13 up