A summer festival
「武!!」
「どうした?」
「今年の夏祭り、どうする?」
メールで事足りる内容をわざわざ言葉で伝えに行く。
「俺は屋台のボールの的当てさえできりゃいいぜ」
ああ、今年も泣かせるんだね。……屋台のおじさんを。
去年だっけ?思いっきり、的割っちゃって大変だったんだよね。
「友達は一緒にいかねえの?」
「?は…………この時期不貞腐れるからね」
がしゃり、とフェンスに寄りかかっては笑う。
昨日の電話をふっと思い出してはくすくす笑う。
「彼氏が行きたくないって言ったんだって」
凄い剣幕で。
それこそ迂闊に出たら鼓膜が破れるんじゃないか、というくらいの大声で捲し立てられた。
「って言う訳で、は今年も一人で夏祭り行くみたい」
「一人で?誘ってやりゃいいのに。俺なら気にしないで」
「いいのいいの。……彼氏追いかけていくんだから」
(…むしろ、彼氏とその御一行が屋台を潰すのを止めるんだけど)
「じゃあ、今年もいつものところで待ち合わせでいい?」
「おう」
教室へ帰ると相変わらずが苛々した表情をしていた。
「雲雀君、今年も風紀委員の仕事するんだって?」
「あの馬鹿雲雀なんて夏祭りの人ごみの中で死ね」
さらりと聞き逃そうとしたけど、無理だ。
今怖いこと言ったよ、この人!!
というより、それくらいの神経がないとあの風紀委員長とは付き合えないって事ですか!?
悶々との頭の中を怖い考えがよぎる。
考えてみれば、と雲雀は喧嘩しているところしか見た事がなかった。最も、が知る限り、その喧嘩の大半はが理不尽な内容で吹っかけ、理不尽なのに雲雀が謝って終わっている気がしたが。
それでも雲雀がを手放さないのは、それなりの理由があるからなんだろうけど。
「は今年も山本君と行くんだ?」
500ミリリットルの午後の紅茶を飲みながらはにそう尋ねる。
「今年もっていうか……うん、毎年行ってるし。武と」
「付き合ってるの?」
「まままままさか!毎年一緒だし、それだけ!」
所謂、幼馴染という関係だから。
とは小さく付け足す。
(ていうより、何でアイツ、彼女居ないんだろ)
野球部の応援に行った時にファンクラブの女の子達に囲まれていた姿を思い出す。
どう考えてもあの中に彼女はいそうもないな。
むしろ、ファンクラブの中で彼女が出来たら絶対その子、いじめられるだろうし。
「?」
「あ、ああ、御免御免。トリップしてた!」
「何考えてたの?」
「何で武には彼女が居ないのかなー、みたいな」
「本人に聞けばいいのに」
「どうせ野球が好きだから、とか言うに決まってるもーん」
本当は知ってる。
彼が何人もの告白を断っていることを。多分、それは当の本人の以外、皆知っているのだろうけど。
それでも彼女にはまだ教えてあげない。
「さて、私、5限目サボるね」
午後の紅茶のペットボトルを握りつぶして、は意味深な笑いを落とす。
「……まさか……」
「ちょっとしたお仕置きよ」
ふふふ、と笑う彼女の視線は怖い。
いってらっしゃい、と手を振ると予鈴のチャイムが聞こえた。
夏祭り当日。
空は快晴だった。お気に入りの、白地に朝顔の柄の浴衣を着せてもらい、はとりあえず、母親に礼を言う。
「いってきまーす」
「武君に迷惑かけるんじゃないわよ!」
「判ってるー」
からんからんと女性用の下駄が可愛い音を立てる。
毎年浴衣を着ているせいか、かなり歩き方は上手になった、と自分でも思う。
最初の頃は肌蹴て大変だったというのに。
(これも武の御陰かも知れない)
竹寿司とかかれた暖簾の前を通ると山本の声がした。
「武?」
がら、と引き戸を開けるとそこにはまだ山本が居た。
「おお、ちゃん。可愛くなっちゃって」
「有難う、おじさん」
「わりぃわりぃ。もう時間か?」
「ううん。まだある」
店の時計を見た山本が納得したように大きく頷く。
「じゃ、行ってくらあ」
「おう!ちゃんに迷惑かけるんじゃねえぞ!」
「わーってる」
何処の家庭も同じようなことを言うんだなぁ、などと考えながらは大人しく隣を歩く。
リストバンドをつけた左手。
人ごみに入る頃には自然と左手はの右手を握り締めた。
「武!」
「あ?」
人ごみに入ってからじゃないと聞けない。
「武は彼女作らないの!?」
「嫌いな奴と手、繋いだりしないんだけど」
「だって私は幼馴染だし」
「嫌いな奴と毎年夏祭り来たりもしねー」
「……いや、だから質問にね?」
「俺はが好きだよ」
一瞬にして固まった。
「返事は?」
「あー………えーと………よろしくお願いします………」
にっと笑った山本が。
握った手をそのままに人ごみの中を歩いていった。
FIN
(*ノノ)
一度死ね、自分。
山本夢は総てハニーに捧げます…(笑)純情が恥ずかしい……!
2006.8.14 up