I love you to the bone


「あぢー…」
コンクリートさえ溶けるんじゃないか、というくらい熱い真夏に。何が楽しくてコスタ・デル・ソルに任務に行かなくてはいけないのか、とレノはツォンに悪態づいた。
四人一組での仕事、という事でレノと、そして
「余り暑い暑い言わないでいただけます!?」
暑さと云うのは時に人を凶暴化させる、という何かの本で読んだのをほぼ同時には思い出していた。
レノはともかく、ミディール出身でお嬢様のにこの暑さは我慢できないものらしい。
亜麻色の長い髪の毛をいつもはポニーテールにしているが、それをお団子にし、暑さをしのごうとしている。既にレノはスーツの上着を脱ぎ、ワイシャツの前をほぼ全開にして、持っていた団扇でぱたぱたと扇いでいたが熱風が顔に掛かるらしく、しかめっ面をしていた。
さんは余り暑がらないですね」
ぎゃんぎゃんと遣り合っているレノとの数歩後ろを歩いていたが、隣を歩いているに声をかける。
スラム育ちで少しは暑さに免疫があるでさえ、汗を拭きながら歩いているというのには平然と汗一つかかずに歩いている。
「ゴンガガも暑かったしね」
「あ、そうか。さん、ゴンガガ出身なんですよね」
「そう。暑くても外で遊ぶから、不思議と暑さに慣れちゃうんだよね」
参るよねー、といいながらはけらけらと笑う。
それでもこの炎天下の中、歩いていれば少しは汗をかいてもよさそうなのに。と不思議な目で見ながらはにっこりと笑った。
「それにしても……」
呟いては改めて前の二人を見据える。
「………仲、良すぎだと思うんだよね……」
低い声音で呟いた言葉は隣で歩いているの耳にも届かなかった。


当初、三日間で終わるはずの任務もこの暑さからだろうか、予定の倍掛かり、結局六日間費やした。
コスタ・デル・ソルの海岸に何故か水着姿で四人は最後の七日目の日を迎えていた。
「この暑さだからもっと人が居ると思ったんだけどな、と」
波打ち際で蟹と戯れていたにレノが水をかけながら言う。
足元には海の家で売っていそうな安っぽいビーチサンダル。
「うちのプライベート・ビーチだもの」
「然様ですか、と」
淡いピンクのビキニに同じ色のパーカーを羽織ったが「然様です」と言葉を返した。
海の御陰か否か、幾分か暑さも和らいだ気がしていた。
ビーチパラソルの下でがペットボトルに入っているお茶を両手で持て余すようにこねていた。
レノとを直視できない。
胸の中にもやもやとした感情が広がる。
紙に落ちた、真っ黒いインクのようにじわりじわりとそれは拡がって、は思わずペットボトルをぎゅうっと握り締めていた。
「泳がないの?」
さん」
はっとした表情を浮かべて、直後に笑いを返す。
「泳ぎは余り得意じゃなくて…。それに、私、プロポーションに余り自信が…」
ごにょごにょと最後の方の言葉を濁しながら言う。
パーカーを着てもそのプロポーションを隠しきれていないのように身体を晒す自信がないんです、と心の中で続ける。
もレノも引き締まっているし、と続けて目の遣りどころに困るんです。と小さく呟いた。
「そんなことないでしょ?問題はバランスだと思うけど」
「バランス、ですか?」
「そうそう。僕から見ればもプロポーション、いいと思うよ」
「あ、有難うございます」
真っ赤な顔をしては持っていたペットボトルに視線を移した。
ちゃぷりちゃぷりとペットボトルの中でお茶が動く。
ぽんぽんと頭を軽く撫でられては自然に微笑んでいた。
さっきまでのもやもやした感情はどこかへ吹き飛んでいた。
その様子を噛み付くようにレノが見ていた。

宿屋へ戻り、元々とっていた二つの部屋にレノとがそれぞれ戻る。
、焼けてない?大丈夫?」
「あ、はい。殆どパラソルの下に居ましたから」
「そう。ならいいんだけれど」
そういいながらがコットンパフにしみこませた化粧水をの頬につけた。
冷たさに思わず身を縮ませてを見つめた。
黙々とその作業を続けられ、何となしに気まずくなり、は言葉を捜した。
は綺麗ね」
「え?」
思いも寄らない言葉には目を大きく見開いた。
風呂上りのリンスのいい香りがする亜麻色の髪の毛が、の僅か先にある。
さんの方が綺麗ですよ」
「昼間、が仲よさそうにしているのを見て思わず嫉妬してしまったの」
さん、さんが好きなんですね」
かぁ、と頬を赤に染めては視線を横に流した。
「私もさんにヤキモチ、妬いてました」
「え?」
「レノ先輩と仲良くしてたから」
二人を見てお似合いだと思ったんです。
「レノとはいい友達になれる程度の感情よ、私」
多分、その言葉に偽りはないのだろう。
よかった、と小さな声では呟いた。

「で。はどっちが好きなのかな、と」
帰る準備も終わり、が刀の手入れをしていた時、いきなりレノは背後から声をかけた。
「何のことかな?」
愛用の村雨を磨き上げ、満足そうに鞘へ戻すとはベッドに座っていたレノを鋭く見据えた。
はどっちが好きなのかな、と」
一瞬の沈黙。
「もし、だって言ったらどうするの?」
まだ濡れている髪の毛から水分をとろうとタオルへ手を伸ばしたが挑発的に言葉を残す。
「別にどうもしないぞ、と」
「そ。じゃあ、僕がを好きでもいいじゃない」
がしがしとタオルで髪の毛を拭いて、はなんともいえない表情をしているレノにタオルを投げつけた。
が好きならよりを構うべきだったんじゃない?」
うるさい、という言葉をレノは飲み込んだ。
「どうするの?本当に僕がを奪って行っちゃって、いいのかな?」
「いい訳ないだろ、と!」
「だったら、どうにかしたら?そんなに不機嫌に僕に当たられても困るんだけど」
「〜〜〜〜〜っ」
投げつけられたタオルをベッドの上に放り投げるとレノはドアを壊すんじゃないかという勢いで部屋を出て行った。まだ僅かにドアが反響している。その様子を見て深々と溜息をついて、生乾きの髪の毛に櫛を入れた。
数分もしないだろうか。
コンコンと控えめなノックの後、が顔を覗かせた。
「どうしたんだい?」
「レノが来てね。……邪魔しないほうがいいかな、って」
「あぁ、なるほど。いいよ、このベッド使ってくれて構わないよ。僕は外で寝るから」
ベッドの上の荷物をしまっては何でもないように言う。
その視線の先には小さいながらもタオルやシーツが干せるように、とつけられたベランダがあった。幸い(?)外は晴れていて、星空が顔を覗かせている。季節も夏だ。風邪をひくことはないだろう。
「そんなの、ダメよ!!」
「女の子を外で寝かせるわけにはいかないだろう」
「大丈夫よ。ここ、四階だもの。誰か変な人が来ることもないだろうし!」
そういう問題じゃないんだ。とは顔を曇らせた。
「僕が言いたいのはね、そういう事じゃないんだ。
もし、ここに来たのがなら、隣のベッドを使っていいよ。って言うよ、僕は」
その言葉にの目にじんわりと涙が浮かぶ。
「僕はに恋愛感情を持っていないからね。でも、いくら僕でも好きな人と一緒に同じ部屋にずっと一緒にいて、理性を保っていられるような自信はないんだよ」
こんな感情、僕は知らない。
こんな気持ち、僕は判らなかった。
「意味、判る?」
これ以上、一緒の部屋に居たらマズイんだ。
……君の気持ちも確認しないままに、きっと、僕は君を壊してしまう。
「わ…私だってレノがを好きだからって二人を残しておくほどお人よしじゃないわ!レノが勇気出したから、私だって勇気出しただけじゃない!初めて貴方を見た時から貴方が好きだったんだから!」
三年間も眠り続けていた。
あの時、昏睡から目覚めて初めて見た貴方を本当に好きになった。
「…それじゃ、ダメなの?理由に、ならないの?」
口許を隠してが笑う。
「隣、使って。こんな薄い壁のところじゃ一緒に寝れないしね」
一頻り笑った後にがにっこり微笑んでそういった。

FIN



レノ短で刀お嬢、でした。
最後の方はもう酔っ払った状態で書いたからなぁ……もしかしたら後日加筆修正してるかも知れません。
絶対兄さんはスケベだと思う(酷い)
夜勤とか、宿直とかで(タークスにそんなもんあるのか!?)レノと一緒に猥談してたりしたらいい(ヲイ)

2006.07.22