ヒトリノ夜


今更一人で過ごす夜が怖いわけじゃない。
そうは呟いて、台風の所為でガタガタとうるさいくらい、窓を鳴らす風の音を消すようにテレビの音の音量を上げた。
テレビの画面には昔の映画をリメイクした作品が流れている。
結構な音量のはずなのだが、その音は窓が鳴る音には負けている。
「………ち、違うのやってないかなぁ」
傍らに置いたリモコンを手にとってチャンネルを次々に変えるが、途中でどれも自分の好きな番組ではなかったことに気付いてそれをやめた。
台風が上陸しそうだから、という理由でいきなり休業の報せがツォンから朝入った。
それを最初喜んだものの、はすぐに表情を曇らせた。
は何より風の音が怖かった。
普通の女の子が怖がるであろう、雷よりも風の音。
「寝ちゃおう、かな」
誰が聞いているわけでもないのに、ぽつりとは呟く。
無駄に広いマンションに住むんじゃなかった、とまた小さく呟いてはテレビをそのままにリビングを出ようとソファから立ち上がった。
刹那、ぶつっという音とともに部屋が真っ暗になった。
「きゃああああああっっ」
慌てて外を見れば他のマンションは光が煌々とついている。
「何!?何!?停電!?」
どうやら風のせいで停電したらしいことはにもようやく理解できた。が、仕事の最中ならいざ知らず、今、プライベートとしてタークスの制服を脱いでいるに今の状況下で落ち着け、というのは酷な話だった。
どうすればいいのか、見当もつかない状態ではその場に蹲る。
テーブルの上においてあった携帯が、いきなり音を奏で始めた。プライベートウィンドウが光を放つ。
その光を求めるようにゆっくりとははいつくばった状態で携帯を手に取り、震える手でそれを開く。
「も…しもし…」
?いきなりマンションの電気が消えただろう?大丈夫かい?』
……」
『参ったね。……オートロックの自動ドア、開かなくなっちゃってる』
携帯の向こう側から、どうやら自動ドアを叩いているらしい、ガンガンという乱暴な音が聞こえてくる。
「何で……どうして…」
『風、苦手だって言ってただろ?』
ああ、それで。
大分前に一度、に言った事がある言葉を偶然聴いたのだろう。それを憶えていてくれたところに思わず涙腺が緩む。
『…壊していい?コレ』
コレとは多分自動ドアのことだろう。
慌ててはそれを否定する。
「大丈夫。が来てくれただけで大丈夫だから、電気が戻ったらでいいよ」
真っ暗な部屋の中で話をしている姿はそれはそれは知らない人が見たら怖いものだろう。
なのに。テレビの音なんかよりもはるかに小さなの声なのに、今は風の音が気にならない。
時間にしたら数分の事だったのだろう。
何の前触れもなく部屋は蛍光灯の光に包まれた。
あ。と小さな声が重なり、は「ちょっと待って」と告げる。
僅かなノイズの後、自動ドアの開く音がした。
後数十秒後、チャイムが鳴って。
……そして一人じゃない夜が始まる。

FIN



本当はが来てくれる予定だったんですが……(笑)でもそれじゃ普通なので(最近、お嬢短銃もいいかな、とか思い始めた)
兄さん(※刀)は余り他人に興味ないよーって感じで好きです。…ま、刀お嬢のマイナーカプですし。
にしても短いなー。

2006.07.03 UP