サウダージ
「今、何て言ったの?」
薄暗い、洒落たという言葉からは程遠いバーの一番奥のテーブルに向き合っていた雲雀に向かってが言われた言葉を理解できない、というように呟く。
「僕は来月イタリアへ行く。……不本意だけど、ファミリーの一員を担ってるらしいからね。
ついては、僕と別れてほしいって言った」
「………」
気まずい空気。
二人の間から言葉が消える。
「本気?」
ようやく紡ぎ出せた言葉に雲雀は小さく頷いて肯定の意思を見せた。
「最低!イタリアでも何処でも行っちゃえば!!」
ばしゃん、と水のかかる音がしてそのままはテーブルと雲雀の横を通って店を出て行った。
そこで初めて、自分が酒を被せられたという事実に気付いて、慌てた様子でお絞りを持ってきたバーテンからお絞りを受け取り、その酒を乱暴にふき取った。
薄暗い路地を足早に進む。
ぐっと涙を我慢して、唇を噛み締めて歩く。
中学からずっと一緒だった。彼此10年の付き合いになる。
我乍らよく10年も同じ人と付き合っていられたものだ、と感心するが、その間、自分も雲雀も(雲雀に関しては確認してないからなんともいえないが)浮気は一度もした事がない。
マフィアになったのはも重々知っていた。だからこそ、言ってくれるのだと信じていた。
『一緒にきてほしい』
そんな言葉をかけてくれるものだと、思っていた。
「……勝手に行けばイイ」
何も弁解もなく、いきなりの終焉宣言。
悔しさよりも先に怒りと苛立ちが先立った。
このまま、ずっと一緒にいられるのだと思っていた。
「……恭弥の馬鹿野郎」
雲雀、と呼んでいたのから、何時の間にか呼び方は恭弥に変わっていた。
憎まれ口ばかり叩いていた関係から、身体を重ねる関係になっていた。
毎日逢えなくても、たとえ、身体を重ねるだけの関係になっていても、それでも、互いに好きだと思っていた。
シンプルな指輪を交換したのはまだ学生の時の事だ。そのときに滅多に笑わない雲雀が、いつかは結婚しようね。と言った雲雀の顔が忘れられなくて。
嫌いになれればどれだけいいだろう。
僕はに飽きたんだよ。そう言ってくれたほうが、どれだけ救われただろう。
誰も居ない路地裏で、堪えきれずにあふれ出した涙が頬を伝う。その熱さに自分で驚いては蹲って嗚咽をこぼす。
可愛くなかった、と思う。
どうしてあの場面でいえなかったのだろう。たった一言の、「行かないで」という言葉が出なかったのは、元来の性格でもなんでもなく、単に雲雀に甘えていたから。
いつ行くの?
見送りに行くから。
………笑顔で、見送る自信なんてない。だからこそ出なかった、言葉。飲み込んだ言葉が胸の中で大きなモヤモヤになって、の身体を支配する。言っても聞かない人だと判っているから、それだからこそ。
忘れたくない。
忘れられるはずもない。
生きていればどこかで逢えると、そんな安っぽい台詞は要らない。次があるの?貴方に、次があるの?平和な日本に甘んじて生きていて、次に貴方に逢える確率、保証はあるの?
あれだけ好き、愛してると囁いた言葉がこれほどにまでずっしりと覆いかぶさってくるとは思わなかった。
いっそ、物言わぬ肉塊にしてくれればいい。
貴方を想ったまま死ねれば、どれだけ幸せになれるのだろうか。
たった四文字の別れての言葉がここまで痛みを残し、その存在を自分にとって残すものだと思えずに居た。否、思いたくなかった。
昔、誰かが言っていた、別れた後は永遠の闇のように感じる、という言葉を笑った事がにはあった。
でも。
それが本当なのだ、と今更に自分の身で感じ、まだ心の奥底で雲雀からの否定の言葉を期待している。
まだ、あの人も自分を愛してくれているんじゃないか、と。
To Be Continued (Swingへ続く予定)
三部作、第一弾「サウダージ」
歌詞は夜にでも日記に載せるとして…。実はこの歌、大好きです。失恋ソングなのに大好き。
紅白で初めて聴いて紅白で泣き納めしたという…(笑)
バイト中聴いていて、いきなりこの話が頭の中でぱぱぱぱぱっっと出来上がりました。
10年後、いきなりイタリアへ本拠地を移すことになって…っていう前設定があるんですが、それはそれ!また今度!
Swing、Rollに続きます。一応終わりはハッピーエンドの予定。
山本&verもあるのですが、それはまた今度の機会に。書きますけども(笑)
2006.9.1 up