Swing
僕はどうしたらよかったんだろう。
一人取り残されたバーの四人掛けのテーブルの、一番奥に座って一人呟く。
からん、とドアに取り付けられた鈴の音の後に、空いている僕の前に座った、黒スーツに黒ネクタイ、そして黒い帽子の男が笑って声をかける。
「よぉ、ヒバリ」
10年前からは全く想像もつかなかった、その好青年に僕は思わず苦笑した。
リボーン。
「……何か用かい?赤ん坊」
「つれないな、折角様子を見に来てやったのによ。……柑橘の香水、お前のじゃないだろ?」
10年前はもう少し口調がよかった気がするよ。
その言葉を飲み込んで僕は残っていたバーボンを飲み干す。
「の、だよ」
「居たのか。ッてことはフラれたな、ヒバリ」
くつくつと笑ってリボーンはバーテンに同じものを、と注文する。
おいおい、いいのかい?君はまだ11歳じゃなかったっけ?
……まあ、どうでもいいけどさ。
「外は雨だぜ」
「お誂え向きだね。…皮肉とも言うべきかな?」
言葉を遮るように運ばれたバーボンのグラスを僕のグラスにかちりとぶつけて、リボーンは笑っていた目を真剣な目に戻した。
「雨がやめば何でもなかったようになる」
そういった僕の頬を張り倒した。
「何時まで強情張ってんだ、テメェはよ」
ぎっと睨むその目は暗殺者のそれだね。
「テメェがから離れられるのかよ」
僕はその質問には答えられない。
「10年前からテメェがどんな人間でも傍に居続けたオンナをあっさりキレるのかよ?」
血に濡れた手を握り締めてくれたのは。
どんなに血で濡れて帰ってきても嫌がらずに部屋にあげてくれたのは。
「テメェが護りたいのはじゃねぇよ、自分の身だろーが。
イタリアで護れなかったら、そのとき言い訳を考えりゃいいだろうがよ!」
赤ん坊がばん!とテーブルを叩き、グラスが僅かに揺れる。
「護れなかったら意味がない!」
僕の声が人の少ないバーの中に響き渡る。
この手の中で肉塊になるのは嫌だ。
護りきれなかったら、どうするというんだ。
僕が。
僕のせいで。
「……肉体的に死ぬより、精神的に死ぬのを見るのが辛いだろうがよ」
どんなことでもない。
「たった一人の女のために、傷ついてみろ!
誇りに思え!」
不本意だった。
誰が好き好んで彼女に別れの言葉を告げるというんだ。
僕は。
雨の中、薄暗い路地を走る。
一抹の期待。希望。そして、自分の勘。居てほしい。此処を通っていてほしい。
そして。
二人の部屋に居てほしい。
許してもらえるのだろうか。
別れを取り消す事が可能なのだろうか。
可能じゃなかったとしても、それは。
……もし。
「が本当に別れを望むのなら、仕方ない…よね…」
雨の中消え入りそうになる言葉を僕は噛み締める。
たった一時間やそこらの前に自分が言った台詞が、ここまで自分を苦しめるなんて思いもしなかった。
何時でも隣に居るのが正しいと思っていた。
だからと云うわけじゃない。
もう一度だけ賭けてみようと思った。
To Be Continued (Rollへ続く予定)
三部作、第二弾「Swing」
サウダージを書いてた時はがーっと盛り上がってたんで、全部頭に入ってたんですが……。
おかしい。
途中で中身がわからなくなっちゃったよ!?(大問題)
サウダージから約二ヶ月も経ってりゃ判らなくもなる……のか?
2006.10.25 up