02.Dusk

夕食の準備のためか、はたまた、特売のせいかスーパーはいつもより混雑していた。その中に籠を持って入っていく黒いスーツの二人組み。一人は赤髪、一人は金髪。これが目立たない訳がなかった。否が応でも目立つ風貌はほぼ制服と化した黒スーツに引き立てられている。
「嫌いなもの、あるの?」
だな、と」
「そう、じゃあそれにするわ」
「ひでえ!それじゃ嫌がらせだぞ、と」
「さっき言ったじゃないの。…レノの嫌いなものにしてあげる、って」
「だからって…ああ、くそ。馬鹿正直に答えるんじゃなかったぞ、と」
「……本当に嫌いだったの?」
普段からかったような口調で物を言い、常に『真実』や『本当』何ていうものをひたすらに隠し通そうとするこの男が、本当に嫌いなものを言っていたという事実には驚いた。
「前言撤回してあげる。…何が食べたいの?」
「……がいいぞ、と」
「私は食べ物じゃないっ!」
真っ赤になって言い返すにレノはくすりと笑った。
「−以外なら何でもいいぞ、と。俺はが作ったものを食べたいだけだからな、と」
一つの籠を二人で持って。
指同士が触れ合う感覚を楽しむ。
傍から見れば恋人同士に見えるんだろうか。それとも、お使い程度の関係に見られるんだろうか。
「こんなもの、かな」
細い身体の何処にそんな力があるのか(タークスのエースなら体力も相当なものなのかも知れないけれど)軽々と水物の大量に入った籠を二つ両手に持っている。は、というとレノが持たせた軽い野菜類が入っている籠一つ。
「…レノ、私少し持つよ」
「何言ってるんだぞ、と。女にそんな重たいもの持たせる訳にはいかないだろ、と」
それに、と言葉を付け足す。
「夕飯もごちになるんだしな、と」
片方の籠を持ち上げる。
その中にはさっきレノが吟味に吟味を重ねた酒が数本入っている。二人でワインボトル二本はきついんじゃないのかと提言したが、聞く耳を持たず、は諦めてそれの購入を許した。レジで金を払い、レノは器用にそれを袋に詰めていく。

の住んでいる場所まではスーパーから歩いて三十分ほど。
決して家賃が安くはないマンションに住んでいるがその家賃は神羅が出している。生活に必要なものなんて殆ど置いてない、生活感のない部屋。生と死が隣り合う生活の中で、そんなもの必要ない。ベッドとクローゼット…それに冷蔵庫さえあれば何もいらない。処分するのも楽だと想う部屋。
…そう、もし、明日死んでしまったとしても。
?」
心配そうに覗き込んだ、瞳。わざわざ立ち止まって下から覗き込んでいる。
「なんでもない…心配しないで」
「そういう台詞は…そんな表情の時には逆効果だぞ、と」
そんな表情、というのがどういう表情なのかには思いつかなかったがきっと死にそうな顔をしているのだろう。
レノの頭と窓の向こうに見える空は真っ赤な夕焼けで、綺麗だった。
「……レノは……怖くない?」
「何がだ、と」
「明日、もし死んでしまったら、とか考えないの…?ってこと…」
「いつも考えてるぞ、と」
意外な言葉には驚愕の表情を浮かべた。
レノは
きっと
いつだって
生きる事しか
考えていないんだって
そう想ってた。
私が
死んでも
レノは
変わらず
笑っているんだって。
そう想ったら…
「怖いの…!私は怖い!」
野菜の入った袋が床の上に落ち、中の野菜が転がる。
「お前は俺が…俺が死んだって護ってやるぞ、と」
「そんな事…!」
そんな事いわないで…。
声も出ない。言葉も出ない。苦しい、苦しい。
「お願い…私を一人にしないで……」
夕暮れが窓から差し込む中、は嗚咽をレノの胸の中でこぼした。

To Be Continued