04.The place that returns

「…あの時の黒ドレスがだったのか、と」
「あの時…、副社長に頼まれてあの下に居たの?」
「いや、違うぞ、と。俺の任務は会場内の警備だった。副社長の護衛はルードだったからな、と。…俺の勘は当たるからな、と」
「勘でも何でもいいわ。私、あの時レノが下に居てくれてなかったら今頃ここには居ないもの」
レノの指がの頬に触れる。
その感触を楽しむように撫でられながら、はレノの手に自分の手を重ねた。ごつごつした、男性特有の骨ばった手に付いているのは無数の傷。それは。数え切れない人の命を奪ってきた、戒めともいえる傷。
あの後、ちょっとした騒ぎにはなったもののパーティが中断される事はなく、はレノに受け止めてもらった礼を言う暇もなく、家へと帰された。後日、ルーファウスから届けられた真紅の薔薇の花束を花瓶に移し変えながら、カードにかかれていたナンバーへ電話をした。
……神羅カンパニーへ入るために。
神羅カンパニーへ入れば何かが判ると思った。
一年間、秘書課にてルーファウスの秘書をすればタークスへ特別に入れてくれるという条件を飲み、は神羅カンパニーへ入社した。
入ってすぐにルーファウスの秘書になったを快く思う者は殆ど居なかったが、それは苦にならなかった。一年間。たったそれだけの期間を我慢すれば、レノを探す事ができる。そのためだけだった。
そして現在。
「…貴方に逢えて…本当によかった…!」
神羅へ入ると父親に告げた時、父親は何も言わなかった。
ただ一言だけ。
…辛かったら戻って来い、と。
その優しさが、嬉しかった。今現在、一度も実家へは戻っていない。一人で戻ったらそのまま家に帰ってしまいそうになるから。
触れていたレノの手から手を離すとは再び料理を再開した。
いつの間にかレノはソファに座り、ぼんやりとテレビを見ていた。テレビでは魔光炉が一日にどれだけのエネルギーを吸収しているかのニュース。反神羅組織のニュースが絶え間なく流れている。
コト
白いテーブルクロスが敷かれたテーブルの上に作られた料理がどんどん並べられていく。手伝おうと腰を上げたレノには首を軽く振ってそれを制止した。
「お客様は座ってていいのよ」
そういってスリッパを鳴らしながら台所とリビングを往復するを見ながら、レノはテレビのスイッチを切り替えた。
「We had terrorism at the afternoon of today.」(今日の午後テロがありました)
耳に飛び込んできたのは、にとっては聞きなれた英語。レノにとっては聞きなれない言語。
「A photograph of one encountered for the damage is this one.」(被害に遭われた方の写真はこちら)
テロ何て日常茶飯事よね。といおうとしたの動きが止まった。
「…お父様…!?」
「Fortunately, as for the injury, as for the damage, several cars in a site of a house exploded by a slight wound.」(幸い、怪我は軽傷で被害は家の敷地にある車何台かが爆発しただけとの事です)
「Then it is the next news.」(では次のニュースです)
気付いたらアナウンサーは次のニュースを読み始めていた。
のお父さんに何か逢ったのか?」
震える手で最後の皿を置き、はこくりと頷いた。
さっきのアナウンサーの言葉が頭の中に流れる。
「さっき、何ていってたんだ?」
「…今日、テロがあって…お父様の写真が出て…怪我は軽傷で被害は車何台かが爆発したって…」
心臓の鼓動が激しくなる。
「It is some ... which it did not know that there was it in ... me, the house which it will hold how.」(どうしよう…私、家に何かあったなんて知らなかった…)
思わず、英語が口をついて出る。一人で居る時や表立って不平不満をいえない時、はいつも英語を使う。ツォン辺りはそれを理解しているようだが、レノには何を言っているかさっぱりだった。
「家に電話してみたらどうだ、と」
「…あ、ああ…そうね、そうする…」
震える指で家の番号を押す。数回のコール音の後、聞きなれた声がした。
「お父様!?」
じゃないか』
「今ニュースで………大丈夫なの?ねぇ…?」
受話器にレノも耳をあて、音を拾う。
『車が爆発しただけ何だ。心配はいらないよ、
(…車が爆発しただけって……凄い表現だな、と)
普通の人間は車が爆発しただけでも取り乱すものだ。ふっといつもの悪戯心が刺激され、レノは電話の横にあったメモ帳にさらさらと走り書きをした。
<幸い、有給もかなり余ってるし、護衛と調査も兼ねて一度実家に戻ったらどうだ?但し、俺と>
口では父親との会話を続けながら、はレノからペンを奪った。
<二人同時に有給をとったらツォンさんに叱られるわ>
<テロの調査をします、とでも言えば公休になるかも知れないぞ?……それに、もし相手が反神羅組織だったらどうする?次は確実に命を狙うという予告だったら?>
使いたくない手口だったがレノにも興味があった。の実家の事、そしての過去。
「お父様…私、一度そっちへ戻るわ。ちょうど有給も余っているし……護衛も兼ねて、ね」
『おお、そうか…!』
「でも見合いはしないわ。……お父様に逢わせたい人が居るの」
急にそんな事を思い立ったレノへの反撃のつもりだった。二言三言父親と会話を交わし、は受話器を置いた。
「じゃあ、俺はの恋人という立場で行けばいいんだな、と」
「……急に言い出したレノに対する反撃のつもりだったんだけど………」
「フリでいいのか…。どうせなら、本物の恋人同士になるか?」
ぐいっと腕を引かれ、はレノに抱きしめられる形になった。
「……そうね、それでもよくってよ?付け焼刃の行動じゃ見透かされるかも知れないし?」
にっこりとが妖艶な笑みを湛えた。

To Be Continued