05.The scenery that I watched it sometime
「おはよ、レノ。朝食出来てるわよ」
「ああ…サンキュー……、と」
寝惚け眼でソファから起きたレノには笑って珈琲を差し出した。昨夜、あの後から延々と家についてから説明を受け、恋人らしく振舞うための特訓までさせられたのだ。本物の恋人同士になってもいいという甘い言葉に誘われたレノは落胆したが、何もないとはいえ、こうして一夜を共にすれば後はどうとでもなる、と腹を括った。
「そういえば、の実家は何処にあるんだ、と」
「え?言わなかった?コスタ・デル・ソルよ」
「…コスタ・デル・ソル……」
仕事で何度か行った事のある地名を出され、レノは驚愕した。ビーチがあり、別荘地としても名高いあの土地にあった、城の様な家を思い出す。名家の屋敷だとルードが言っていたのを思い出し、レノは頭を抑えた。
私有地の前にはごっつい警備員が何人も立ち、何人たりとも入るのを許さなかったし、家の人が外出しているらしき様子もなかった。最もそれは当然な事だったのかも知れない。
「レノ?どうかした?」
「の家って、城みたいな形してるか、と」
「んー…そうね、確かにお城みたいだったわ」
絶句、としかいえなかった。
「黒スーツで本当にいいのか、と」
レノの運転する車の中でレノは反復する。
あの後、レノの部屋に寄り、クリーニングから帰ってきたばかりの黒スーツに着替え、レノは車のキーを持った。着替えてる間にはツォンへ連絡をいれ、事の顛末を手短に話した。意外な事にツォンからはあっさりと「調査してこい」と返答が戻り、は呆気にとられた。ツォンとしては問題児であるレノを遠ざける事によって仕事が捗ると考えた結果なのだろうが。
「レノはカッコいいから何着ても似合うのよ。それに黒スーツなら違和感ないしね」
「にしても……可愛い服だな、と」
「あら、ありがと」
白いワンピースに身を包んだが褒められて嬉しいのか、頬を染める。
「黒いスーツで戻ったら驚かれちゃうもの。……私がタークスに入った事何て、知らないんだから」
「そうなのか、と」
黒いスーツ=タークスだと気付かれる事はないだろうが、それでも念の為という事もある。レノにも口裏を合わせてもらい、タークスではなく秘書課勤務という事にしてもらった。最も、何か遭った時のために、持ち帰る荷物の中に組み立て式のショットガンはきちんと入っている。
神羅に入った時だけでさえ、あんなに驚かれたのにこれ以上命の危機に直面するような仕事だと知ったら無理矢理でも連れ戻されてしまうだろう。
「そこを左に入って!」
の急な言葉にレノは慌ててハンドルを切った。
「まっすぐ行くと警備員が居て厄介なのよ」
林道を車体を揺らしながら奥へと入っていくと急に視界が開けた。
「…な…!?青空…?」
「人工ドームよ。人工太陽……馬鹿な人。こんなものまで作って……プレート一枚外せばそこには本物の青空が待っているというのに」
車が門を通ったその瞬間、けたたましい音が響き渡る。何処に隠れていたのかと思うほどの人数の警備員(既に警備兵と言った方が正しいのかも知れない)が車を取り囲む。
「…なぁ、。一ついいか、と」
「なぁに?」
「これだけの警備兵が居てテロ何てどうやって起こったんだろうな、と」
「それを調べに来たんでしょう?私達は」
一斉に警備兵が車に銃を向ける。流石にその無礼な動きにレノもかちんときたのか、いつでも発動できるように電磁ロッドを握り締めている。
「大丈夫よ、レノ」
助手席からが降りる。レノ側の銃口はそのままだが、に向けられる銃口は確実に急所の位置を狙っている。
「Did you forget a face of the next present head of a household of this house?」(この家の次期当主の顔も忘れたのかしら?)
銃口を突きつけたまま、その中の一人が小声で話を始める。
二言三言の後、突きつけられていた銃口は下を向いた。
「レノ、出てきて平気よ」
「しっかし……こっちの言葉は通じないのか、と」
「そうね。何処ぞの反神羅組織に捕まって洗脳でもされて、この家の大事になると困るからそういう人達しか雇ってないみたいね」
一台の車が砂埃を巻き上げながら、近づいてくる。警備兵をかきわけるように近づいてきた、体格のがっしりした男性こそ、の父親であり、ミッドガルを裏から操作していると噂される人物だった。
名前は 。年齢は五十代半ばで趣味はハンティング。箱入り娘として育てたを溺愛していて、娘のためなら何でもするといわれている。事実この人工ドームは娘のために作られた、といわれ、総費用いくらかかったのか一般市民には想像しがたかった。
「お帰り、」
「ただいま戻りましたわ、お父様」
「この警備兵達がお前に何かしたかね」
「いいえ。この家とお父様を護るのがこの人達の任務ですものね。私と私の大事な人に銃口を突きつけたくらい、どうって事ありませんわ」
一見すれば単なる親子の会話。だが、何故かレノには引っかかりを感じて仕方なかった。
(金持ちの親子なんてこんな他人行儀な喋り方をするもんなんだろうな、と)
スラムの中で育った人達から見れば到底判りようのないこの会話術。
「彼がの恋人かね。……こう言っては悪いが……、お前には…」
「In silence! I intend to complain to the person whom I chose!?」(黙ってよ!私の選んだ人に文句をつけるつもり!?)
「There is not such an intention. But I say whether formality is not different, and it is ...」(そんなつもりはないよ。でも、格式が違わないかと言っているのであって…)
「I do not care formality. ... fatigue treasure today stops! If there is some story, I do it at the age of supper and have it!」(格式なんてどうでもいいわ。…疲れたから今日は休むわ!何か話があるなら夕飯の時にしてちょうだい!)
「I understood it. I am absent slowly.」(判った。ゆっくりお休み)
「レノ、行きましょう!車を出して!」
さっきの会話は爪の先ほども判らなかったが、が今怒っている事だけは余裕で理解できた。警備兵とを縫うようにしながらレノは車を走らせる。
シートに身体を沈ませ、は大きな溜息をついた。
「……ごめんね、驚いたでしょ……?」
綺麗に整え、アップにした髪の毛を解き、はシートの上で膝を丸めて座った。
「……そこの駐車場の好きなところに停めていいわ……」
がそう呟く。
車が停まり、は荷物を持って外へ出た。まだ生々しく残る爆発の跡。車何台かが大破したという情報は強ち冗談ではなさそうだった。
レノの中でじっくりと見たいという思いはあるが、今は取り合えずの体調の方が心配だった。
「……あのね、レノ……もし、この家の中でお父様や警備兵に何かされそうになったらね……
It is not to move if I do not want to die!って叫ぶといいわ」
「…何だそれ、と」
「死にたくなかったら動くな、って意味よ…。間違ってはないでしょ?」
くす、と電磁ロッドを指差して微笑む。
「…だな、と。取り合えず、ちょっと休んでから調査させていただこうか、と」
「了解よ、レノ」
人工的に作られた青空を見上げながら、背筋がぞっとなる感覚を思い出す。
今回は大丈夫、とレノの袖口をぎゅっと掴みながらは自分自身へそう言い聞かせた。
To Be Continued