06.With the voice that sun and ... you call a blue sky
「…どのくらい経ったか…判る…?」
ドームに覆われたこの土地の中にあるのは、青空・または星空の二つ。に尋ねられ、レノは置時計を垣間見る。
「あれからまだ二時間ちょっとだぞ、と」
ロッキングチェアに座り、レノは自然に椅子を揺らした。
「…夕飯の時間まで、調査しましょうか」
毛布を剥ぎ取り、レノの頭からばさっとかけるとはにっこりと微笑んだ。
爆発が起こったのは駐車場。調査報告書によると(最も、信用していないが)被害は車数台。人的被害はなし。
「これがその現場か、と」
家の壁には真っ赤なスプレーで「You ruin a house, too!」(お前も家も滅茶苦茶にしてやる!)と書かれていた。それをレノがカメラにおさめる。爆発があったらしい地面は抉られ、車だったと思しき鉄の破片が彼方此方に飛んでいる。
被害にあった車はもうスクラップにされたとのことなので、忌々しく舌打ちをし、レノは地面も同じようにカメラに残す。
遠くに光るものを見つけ、レノは目を細める。
「…望遠鏡か、と」
「監視しているのよ、私達を」
「お義父様がか、と」
「…さぁ、どうだか。彼らの独断かも知れないわよ」
私はどっちでも関係ないけど、と言葉を付け足す。
しゃがみ込み、爆発の跡に指を這わす。ざりざりと鉄粉が指に纏わり付き、は嫌そうな顔をした。
沈黙が流れる中、不意にレノの携帯が着信を告げた。
「はい、レノです、と」
『二人で何をしている……』
「何も悪巧みなんかしてません、と。ツォンさん、の家で爆発があったのを知ってますか、と」
電話口でのツォンの声は冷静だった。
すぐにの携帯にもツォンからの会話が割り込まれる。
『、今の話は本当か?』
「…はい、本当です。実際の被害規模がどれくらいだか判りませんし、本当に犯人がアバランチなのかも皆目見当がつきませんが……実際問題として爆発があったのは事実のようです。夜にでも写真を数枚送ります」
ツォンが目の前に居たら今頃顔色が変わっているだろうなぁ、と想像しながらは言葉を紡ぐ。
『何か判りそうなのか?』
「さぁ…どうでしょうか。二、三日滞在してみて何もなければ帰ろうかとも思っているのですが」
不穏な空気の流れには言葉を止めた。ぐっと引っ張られ、はレノに体重を任せる形で家の影へと避難する。
ダダダダダダダダッ
壁に横一文字に穴が開いていく。
「ショットガン!」
「ツォンさん、非常事態発生なんでまた後で報告します、と」
電話口で名前を叫んでいるツォンの声を強制的に二人は切断する。
「この角度……森の方からね…しかも私が普段使ってるショットガンと同じくらいの性能を持ってるやつだわ……」
じっと森の方を見つめ、レノとは顔を見合わせた。
「…望遠鏡!」
あれは望遠鏡じゃなく、ショットガンの照準をあわせるものだったんだ…。
が悔しそうに呟く。
「でもこれではっきりしたな、と。警備兵の中にこの家を快く思ってない奴が居るんだろ、と」
「そうね」
「これだけ派手な銃声を轟かせても警備兵が一人も出てこない辺り、ビンゴかも知れないぞ、と」
「いい度胸だわ……これ以上、私達の目の前で凶行は繰り返させない…!」
踵を返すとはレノの腕を掴んだ。
玄関から自室へ戻りながら、が段々タークスとしての表情に変わっていく様をレノは楽しんだ。否、その変化が嬉しかった。
がタークスに入ってきてから、ずっと不思議だった。ツォンの言葉ではないが、何故、こんなにも自らの命を捨てるような行動ができるのか。
タークスじゃない、プライベートな時のはとても脆い。抱き締めて少し力をこめたら壊れてしまうのではないかと思えるくらい、儚く、脆いのに…タークスとしてのの精神力は凄まじいものがある。それこそ、昔からタークスに身を寄せているルードやレノに匹敵するものがある。
持ってきた荷物の中からタークスの制服とも言える黒スーツを出し、ショットガンを組み立てる。さっさと着替え、はショットガンを握り締め、窓の外を覗いた。
「何してるんだ、と」
「狙っているのよ、アレを」
ファインダースコープを覗き、は呟く。
一瞬の沈黙の後。
ダァンッ
たった一発の銃弾が放たれた。
続いて、誤爆したような音とざわめき立つ声。
「…ヒット」
「人違いだったらどうするんだ、と」
「その時考えるわ」
たかだか警備兵が一人死んだだけじゃない。
そう言い放ってしまうの考えは、タークスで教え込まれる考え方だ。何も間違ってはいない、何も。
ただ、通常の彼女とのギャップがあってちょっと戸惑ってしまっているだけ。
「私はね」
ショットガンをおろし、窓から離れる。
「これ以上、私の家の中を壊してもらいたくないだけなの。…そして、私の大事な人達を傷つけたくないだけよ」
閉じられていた瞳が見開き、その視線から逃れるのようにレノは目をそらした。
To Be Continued