07.I want to try to surpass you
今まで青空だったドーム内にいきなり星空が現われる。空を表現していた何かが落とされたためだと判るが、それに伴い庭園に設置された、何百というライトにも灯りが灯る。
昼のような明るさは全くないが、それでも庭園を歩くのには不自由ない明るさで、の自室から丸見えの庭園を見張るには充分な明るさだった。
…最も、戦闘が始まり、ライトが落とされなければ、だが。
「お父様には安全な場所へ避難していただいているわ。…遠慮なく、潰させてもらう」
濡れ衣だったら可哀想だけどね、とが妖艶に呟く。
耳を劈くような爆音が辺りに響いた。
見れば庭の彼方此方で爆発が起こっている。
「…絶対潰す…!」
プレジデントみたいだな、と言ってやりたかったがが怒り出すだろうとレノは口を噤んだ。
はっきり言う。
レノは誰にも彼にも甘い顔をする訳ではない。ごく一部の、それもごくごく親しい人達にだけ、優しい顔を見せる。
「よぅし…。じゃあ、行くか!と」
三階以上の高さの場所からとレノは飛び降りた。
上着が風にたなびき、2人は上手に芝生の上に着地する。
着地した態勢のまま、はショットガンを構える。間髪いれずにショットガンから銃弾が飛び出す。的確に弾は急所へ当たり、音だけの情報にも関わらず、倒れた音がする。
ギィンッ
レノの電磁ロッドが前方から飛んできた弾を弾き落とす。ぴりぴりと電磁ロッドを握っている右手が痺れるが、気にせずにレノはを抱えるように横へ飛んだ。
「ありがと」
「どういたしまして、と」
決して安全ではないところにを座らせ、レノは飛び出していった。
元々持っていた暗視スコープで遠くを見、はショットガンではなく、短銃を構えた。この短銃は神羅に入る前に、父親が渡してくれた母親の形見のもの。銃身には母親の名前が英字で刻まれていた。今では肖像画でしか見る事の出来ない、母の姿がこの短銃を握り締めているところを想像する。
父親はよく酔うとこの短銃を持ち出して母親の話をしてくれた。それは神羅に入るまでずっと続いた。
と同じ髪の毛の色で、それを後ろで一つの三つ編みにしていたよ、とか。
サファイアのような色の瞳だった、とか。
…そして、元は神羅の一人だった事……。
経緯はどうだったか、も覚えていないが、母は父とそして、お腹の中に居たのために、この短銃一つ持って神羅を辞めたそうだ。
躊躇する事無く、は引き金を引く。
次々と
倒れる、警備兵。
「…お母さん…」
薬莢を落とし、素早く新しい薬莢を装填する。
「…私、好きな人が出来たわ。この戦場で」
ガゥンガゥン!
耳を劈くような銃声音にの呟きはかき消される。
幼いと母が一緒に写っている写真をはマンションのベッドルームに飾ってある。
毎日寝る前に色々な事を報告するのを、はレノと出逢ってからしていなかった。
「同じタークスの人。……レノっていうの」
最後の一人に照準を合わせる。
が、その引き金は引かれる事はなかった。
電磁ロッドから繰り出された球が警備兵を吹っ飛ばす。
(…お母さんにも紹介したいわ…)
レノが倒れた警備兵の脈を確認していく。
「……フン、生きてるな、と」
それだけ呟くとレノは携帯を取り出し、慣れた手つきで電話をかける。
「ツォンさん?こちらの制圧は終了しました、と。後はそっちで吐かせて下さいよ、と」
二言三言言葉を交わし、レノは電話をしまった。
納屋にあったロープで警備兵達を縛り上げ、ツォンの要請を受け、邸へきた神羅兵に身柄を明け渡す。
「…お父様、黙っててごめんなさいね。私、今は秘書課じゃなくて総務部調査課……タークスなの」
黒スーツのまま、は父の前に姿を現す。
傍らにはレノが黙ったまま立っていた。
あの時、あのパーティに出席しなければ。
あの時、レノに助けられなければ。
きっと私は貴方の言う通りの人と結婚していたのだろう。
「…後悔していないんだな?いつ死ぬか判らないというのに…」
「後悔何てしないわ。今まで言われるままだった私が生まれて初めてお父様に反抗してでも入りたいと思ったところだもの」
「お前は本当に…瑠璃に似ているよ」
「瑠璃…ってお母様よね…?私、お母様の事を知りたいんだけれど…神羅に居た時代のこととか…」
の言葉に一瞬、押し黙ったが、諦めたように微かに笑いをこぼした。
「なら、地下に行くといい」
諦めた口調には差し出された鍵を素直に受け取った。
To Be Continued