08.The beautiful person who sleeps underground
カツン、カツン…
とレノの靴音だけが響く。
「家に地下室がある事を初めて知ったわ、私」
薄暗い階段を懐中電灯一本で下りていく。
螺旋階段を降りきった先には広間があった。
装飾されたものは一切ないが、入った前にあるのは一枚の肖像画。
と同じ栗毛色の髪の毛をまっすぐに伸ばした女性。
「…お母様…」
淡い光に照らされた、その肖像画に魅入る、。
今のより若干若いだろう、その姿は黒スーツを着ているところからタークスの一員だったことを予測するに充分だった。
何故、隠されるように肖像画があるのか不明だが、一つ言えること。
「…綺麗な、人だな、と」
と同じ髪の色で、と同じ瞳の色を持ち、芯の強い瞳をしている肖像画の中の女性は。
凛とした空気をかもし出している。
だが。
レノの中にはもやもやしたものが残っていた。
この、言葉に出来ない不快感は何だろうか。
(……似過ぎている……?)
ざわざわ、と胸の辺りにまるで蟲が這うような感覚がレノを襲う。
これ以上、此処に居てはいけない。と危険を伝えるシグナルが脳内に響き渡る。
ドクン、ドクン、と
これ以上、此処を荒らしてはいけない。
目覚めさせてはいけない。
それは、野生の、本能。
「ヤバい…」
ドクン、ドクン、と
心臓の音は段々に大きくなっていく。
。
…お前、気付かなかったか?
……瑠璃サンが、
死んだ理由、
誰も話してないんだぞ、と。
お前に似ていた、人だったと話はしてくれても。
…何で死んだのか、誰も教えてくれていないんだぞ、と。
「!」
慌てふためいたレノの声に反応したの瞳は、空ろ、だった。
いや、空虚。
何も映していない。
肩を掴んで揺さぶる。
ガクガクと首が抵抗なく前後に揺れる。
嫌な汗が噴出してくる。
「!!」
思わず声を荒げてしまう自分を制御しながら、レノはの肩を揺さぶり続ける。
何故
何故、気付かなかった!
あれほど。
これほど。
自分は彼女を見つめてきたのに。
「……」
…彼女の中の、瑠璃に何故気付かなかった。
何故、彼女が。
無傷で神羅を辞める事が出来たのか。
そんなの、あの『男』が関わっている事は明確だったのに。
「…平和に甘んじてた…!」
生ぬるい、平和という湯に浸かり過ぎていて。
……自分の近くの、愛しい人が。
毒牙に掛かっている何て、気付かなかったんだ。
「を、返してくれよ、瑠璃サン」
揺さぶるのをやめた、レノに、にぃっと笑いかけたのはだった。
「察しのいい坊やね。そういう子、嫌いじゃないわ」
「さっさと気付くべきだったよ、と。本物のは何処だ」
「あら、やだ。本物も何も…。この身体は正真正銘、の…私の娘のものよ。私はただちょっと…彼に頼んだだけ」
そこで彼女は口を噤んだ。
「この子に好きな人が出来たら、その人を絶望に叩き落してやりたいから、私の支配下におけるようにして欲しいんだけど、ってね」
「宝条にか!?」
長い髪の毛を三つ編みにしながら、瑠璃は笑う。
声高々に、まるで子供のように。
「じゃなきゃ、秘密を知りすぎている私が、五体満足で神羅を辞められたとでも思っている訳?
生まれるであろう、実の娘にクローンの私を植えつける。そして、の中でクローンの私は人格だけが育つようにプログラムをする!それくらい、あいつならやるわよ」
吐き捨てるように、言う。
「大体、には子供何て生ませる訳にはいかないのよ。この子は処女のまま、宝条の実験材料にするっていう約束なんだから」
そりゃ、子供生ませる前の段階だろ、と変なところで冷静にレノは突っ込みを入れていた。
「にしたって、本当にってば私の若い時、そっくりよねー」
くすくす、と鏡を見て笑う。
じゃき、と電磁ロッドを取り出し、レノはに…否、瑠璃に向かって突きつけた。
「強制的にでも出て行ってもらうぞ!」
「無駄よ!貴方に、私が倒せる訳がない!」
電磁ロッドを構えたまま、レノは瑠璃との間合いを詰めた。
完全に間合いへ入った、とレノが一瞬勝ち誇った表情をした。
…が、刹那。
瑠璃がレノの胸元に居た。
顎にごり、と硬いものが当たる。
銃の、先端が顎から脳天に向かっての一直線のスタート地点に押し付けられていた。
「さあ、坊や。どうするの?このまま、私を神羅へ連れて行く?それとも、…死ぬ?」
「殺せよ、と。中身は違ってもの姿で殺されるなら、カイカンだぜ、と」
「そしたらは同胞殺しの罪で地獄行きね。…貴方を殺す瞬間、に戻ってあげましょうか?きっと猟奇的な悲鳴が聞こえるかもよ?」
一瞬にして穏やかだった瑠璃の瞳が、殺気だったものになる。
「さあ、選びなさい。
私とともに神羅へ行くか。それとも、貴方の愛するの悲鳴の中で臓物ぶちまけて死ぬか、をね」
顎から銃を外すとその銃身を肩に乗せ、にっこりと瑠璃は微笑んだ。
神羅へ向かう車の中。
瑠璃はゆったりと車のシートに身を沈めていた。
「瑠璃サン」
「何?」
「アンタ、本気でを宝条の実験材料にするつもりなのか?」
「あは、心配?」
「茶化さないでくれ」
少々苛立った感じでレノは呟く。
挨拶もそこそこに(とはいえ、本物の以上にらしく挨拶をしていたが)二人は神羅カンパニーへの道を急いでいた。
「さあ……ドウデショ。今はまだそれしかいえないのよ、悪いわね、レノ君」
あははは、と瑠璃は笑う。
くそ、と小さく呟いてレノはハンドルを叩いた。
To Be Continued