Ein wahres Gefuhl


「のう、陸奥」
「何じゃ。口動かしてる暇があるなら、手を動かすぜよ、手を」

互いの姿は書類に遮られて見えない。
唯、カリカリとペンの走る音とペタンという判子を押す音でお互いが仕事をしている事を知る。

「じゃのうて、に電話ばかけてきたいぜよ」
「その目の前の書類が片付け終わったらいくらでも電話するといいちや」
「やる気が出んきー」

そこまで言ったとき。
陸奥の携帯電話が軽快なメロディを奏でる。
いつもは電子音の彼女の携帯からこんな曲が流れるのはとても珍しくて、坂本は目を丸くした。

「もしもし?」

ぶっきらぼうな口調で出た陸奥の声音が和らぐ。

「ちょうどおんしの話をしとったところじゃ」

ぴくり、と坂本の眉毛が上がった。
書類を倒さないように細心の注意を払って陸奥のデスクの前まで行くと、じぃぃっと携帯を見つめる。

「一分じゃ!地球からの電話は高いき!」

黒い携帯本体を坂本に投げるといそいそとそれを耳に当てる。

か!?わしじゃ!」
『うん、聴こえてるよ。元気だった?』
「余り、元気じゃなかったぜよ…」

久し振りに聞く貴方の声は。
まるで砂地に落とした水のように吸収していく。
どのくらい、会話していなかっただろうか。

『っく…』
?」

唐突な泣き声に、坂本は一瞬うろたえた。
何か言ったらいけない言葉でもいっただろうか、と。

『早く、帰ってきて、辰馬。寂しくて、私、死んじゃうよ』
「……三時間じゃ。三時間待ってられるき?」

電話の向こうで小さく、うん、と呟いた彼女の声を確認して電話を切り、携帯を陸奥へと返す。

「のう、陸奥。三時間で地球までつけるかの?」
「おんしが書類を三時間で片付けられるなら可能かもしれんぜよ」
「大丈夫じゃ」

デスクについている艦内へのマイクのスイッチをオンにして。
地球に向かってくれ、と陸奥が言う中、物凄い勢いで書類は消えていった。

FIN

(2007/2/20)



やっちゃった、銀魂一発目が坂本夢ってどうなのよ、私…!