君は何よりも愛しくて。
「ほんっとうに悪かった!」
「許さない」
「忘れてたんじゃないんだって!」
「忘れられてた方がまだ救われたわ」
銀時の数歩前をすたすたと競歩の如く歩き出す。
「なあ、ってば」
「何時間待ったと思うの?映画が二本観れたわよ」
珍しく銀時から誘ったデート。
映画の前売りチケットを手に入れたから一緒に行くか?という、至極ありきたりな誘い文句ではあったものの、それでもには嬉しくて。
たとえ、内容が全然ラブロマンスじゃない、ホラーだとしても。
銀時がデートに遅刻するのは(それも四時間も)日常茶飯事だ。本来ならあってはいけないことだが。
「……銀ちゃん、私達、少し、距離置こうか」
いやいや、銀さん、まさかあそこまで怒るとは思ってなくてさ(映画のタイトル観て眉間に皺寄せてたからね、は)
起きたら、待ち合わせ時間をその時点で既に二時間突破してたわけ。
「そりゃ、さん怒りますよ」
「姐御と別れたアル?」
万事屋の中で新八と神楽は次々に好きな事を言う。
だから、銀さんだってこう反省してな。
「ってか、別れてねーよ」
「距離置くってのは、もう終わりっていう意味なんじゃないんですか?」
「銀ちゃんの甘党を受け入れられたのは姐御だけだったアル」
過去形で話するのはヤメテ、本当、お願いだから。
コンコン
控えめなノックの音がした。
どうせ家賃の督促だろう、程度に俺はドアを開けて、目の前のに驚愕した。
あれ?だってさ、さっき喧嘩(?)別れしたばっかじゃね?
「どう、」
「ねえ、銀ちゃん。銀ちゃん、私の事、好き?」
好きか?って。
そんな愚問だろ。
好きで好きで仕方なくて、どうしてやろうかコノヤローってくらいには好きだっつーか。
「愛してる、にちけぇ…と思う…」
あの二人からここまでは多分聴こえてねえとは思うんだけど。
それでも何故か声が小さくなっていって。
「…あのね、銀ちゃん。私が今日に限ってあんなに怒ったのはね」
「一周年だから、だろ。判ってるんだよ、ちゃんと」
だから、ちゃんとしたデートをさせてあげたかったのは本音だ。
あ?何、今思いついたんじゃねえの?っていう野次は。失礼だな、銀さんはちゃんと考えてだなァ。
そりゃ、映画の選出は間違ったけどよォ。
「だから、あれだけ怒ったってのは当然だと思ってるけど…でもさ…」
「よかった」
「へ?」
いきなりのの言葉と、の笑みに俺は思わずキョトンとした。
可愛いな。何だ、その笑い方。俺を誘ってるんですか、コノヤロー。
って違う違う。
いくら銀さんでも後ろにガキ2匹居て、公衆の面前(が上がってきた階段の途中にはババアが居やがる)じゃ襲ったりしないですよ、ええ、ホント。
「銀ちゃん、忘れてるんじゃないか、って思ってたから。
私が押し切るように付き合い始めたでしょう?だから」
そこで一旦言葉を区切って、一呼吸置いた。
「本当は、付き合うの、もう嫌だったんじゃないかな。って思ってたの」
クリティカルヒット。
やべえ。
絶対やばい。
これ以上言われたら銀さん、本当に欲情する。
「だから、憶えててくれて、有難う」
「!明日、同じ時間に映画館!」
「うん、明日は遅刻しないでね」
そういわれて絡まれた小指に。
…人の温もりを感じて。
明日は遅刻しないと心に誓って。
FIN
(2007/02/22)
あれ?銀さん、ギャグにしようと思ったのになー…(笑)