手中に収めた者の勝ち。
「隊長!私のとっておいたお饅頭、食べましたね!?」
「何時までも取っておく方がいけねーんでィ」
襖一枚隔てたところに居るのだろう。
ぱたぱたと歩きながら声がするのは、沖田との声。
その声を少しむっとした感情を持ち合わせて、土方は聞く。
元々、沖田は一番隊隊長では一番隊隊士。それを考えれば二人が一緒に居る時間が長いのは合点がいく。
が、それがどうしても面白くなかった。
「酷いなぁ…最後の一つ、楽しみにしてたのに」
「桜花屋の饅頭だったっけねィ」
「折角有給とって朝から並んでたのになー…」
桜花屋。と聞いて、土方の眉尻が上がる。
朝、見回りに出たとき、店の前に居たような気がしたのは気のせいじゃなかったか。
(…桜の花びらと一緒の、桃色の着物だったな…)
似合ってた、とは口が裂けても言わないが。
少し冷めてしまったお茶を口に含んで、土方は考える。
真選組唯一の女性隊士で、彼女を気にかける人間は多い(勿論、中には恋愛感情を抱いている隊士も居るだろうが)
(…相手が山崎だったらここまでムカつかねェ…)
山崎とが並んで話している姿を想像しても、それは余り苛々する対象にはならない。
相手が総悟だから?
自問自答するようにお茶を一口含む。
彼女の周りには何時でも誰かが居て、誰かと楽しそうに話をしている。
それが近藤だったり、山崎だったり。
…別の隊士だったり。
(俺は余り傍に居ねえなァ…)
煙草に火を点け、紫煙を吐き出す。
「もう!隊長の意地悪!」
「俺が意地悪なのはいつもの事だろィ。それより、いいのかィ?」
「え?あ!」
「んじゃあ、ごゆっくり、っと」
「もう隊長!!」
去っていく足音は一つ。
どこか行くのだろうか。
ぼんやりと煙を肺にまで届けているといきなり目の前の襖が開いた。差し込む太陽の光に目を細める。
「土方副長」
「あ?」
逆光でよく見えない。
が、そこに居るのは紛れもなく、だ。
「副長、お暇ですか?」
「…あァ、まぁな」
「お弁当作ったんです。一緒に梅を見に行きませんか?お昼、まだですよね?」
順番が逆だと小さく呟いて、は顔を真っ赤にして土方を見る。
「お昼、まだでしたら…梅見ながら一緒に食べませんか?」
にこりと笑って。
そして。
「ああ、付き合う」
また総悟の野郎に、素直じゃないですねィ、とか言われるんだろうな。と思いながら。
ゆっくりと腰を上げた。
FIN
土方さんはマヨラーだから、きっとお弁当にマヨがないって怒る(笑)