I and you are married.


「何馬鹿な事言うとるちや」
「だからよォ」
「わしは金時と結婚するような趣味は持ち合わせておらんき!」
「じゃあ、何で俺とヤるんだか…」
「そげんこつ、利害関係の一致じゃろー」

気にしたら負けじゃ、金時ィ!
そう元気に叫ぶのは坂本辰馬。
その前で白髪…失礼、銀髪の天然パーマをガシガシと掻くのは坂田銀時。


事の起こりは一時間前。

「坂本と坂田で一文字しか違わねーじゃん。画数も一緒だしよ。
この際、俺ァ、坂本銀時になるからよ。俺をお前の嫁にしろ、コノヤロー」

いきなり。
本当にいきなりだった。
久し振りに地球へ帰還した快援隊から降りてきた坂本にいきなり宣言したのは、銀時だった。
あの陸奥が思わずツッコミを忘れ、坂本でさえも、唐突な申し出に唖然としていた。
取り敢えず、坂本は陸奥へいつものように「三日ほどで船へ戻る」と告げ、張り付いて離れない銀時とともに高級ホテルへしけこんだ。
そして冒頭の文章へと戻る。

「しっかし、おんしがそんなに結婚に執着するとは、わしゃ驚いたろー」

どん!
と、ホテルのテーブルの上に置かれた日本酒を惜しげもなく注いでは胃の中へと納めていく。
コップは二つ。だが、銀時の前のコップの中身は一向に減っていない。

「俺ァ、家族がほしいだけだ」
「…ハ」

自嘲気味に笑った坂本に、銀時が冷めた目を向ける。

「だがの、金時。わしらは男同士じゃ。
どう足掻いても結婚ば出来んぜよ」

色眼鏡の下で坂本の目が獣じみていく。

「わしはおんしの家族になっちゃる事は出来るき、しかしのぅ…家族のぅ。
金時はどんな家族がほしいんちや」

ぐっと銀時の分の日本酒も空にし、一升瓶を口の上で振る。
数滴の日本酒がぽたぽたと坂本の口の中へ落ち、中が空だと判るとそれを丁寧に床へと置いた。

「どんなんだろォな」

茶化している訳でもなく、本当に判らないんだ。というように、銀時が呟く。
あれだけ一人で飲み干したくせに酔った様子もなく、しっかりとした足取りで坂本は銀時の目の前に立つ。
ぼんやりとした、人にはよく死んだ魚みたいな瞳、と呼ばれる目で銀時は目の前の坂本を見遣る。

「俺ァ、お前の帰ってくる場所になりてェ」
「は?」

素っ頓狂な声で思わず坂本は返事をしていた。

「わしゃ、いつでもおんしの元へ帰って来とるぜよ」
「じゃなくてよ。…もし、お前がいつか、地球に還って来る事があったら」

それは、即ち。
快援隊を解散させたら、という話。
快援隊・坂本辰馬。ではなく、唯の一個人の坂本辰馬になった時の話。

「俺ァ、今のままでも充分だけどよ」

地球に降り立つ前には必ず連絡を寄越してくる。
迎えに行く。
数日一緒に過ごして、そして、坂本を見送って、そして再び、眠れない夜を過ごすのだ。
膝を抱え、次は何時帰って来るのだろうか、と指折り数え。

「もし、お前が俺の知らないトコで屍になっちまってたらよォ…」

絶対後悔するだろ?
にへら、と笑って銀時は坂本を見る。

「…銀時、そりゃ、わしの台詞じゃき」

高杉と殺りあったと聞いて、本当に背筋が凍るかと思った。
総てを知ったのは、総てが終わってから。

「もし、わしはおんしが高杉や高杉の駒に殺られるような事があったら、わしは高杉を許さんぜよ」

ぐっと坂本の手が銀時の着物を掴む。
例え。
例え、一時、同じ思想の元に旗を掲げあった仲間だとはいえ。
攘夷戦争をともに生き抜いてきたとはいえ。

「わしは、わしの大事な人間を傷つけられて許せるほど、寛大じゃないちや」
「辰馬よォ。お前、酔ってるだろ」
「どうじゃろ」

嬉しいはずの言葉なのに。
待ち望んでいるような言葉ではなくても、嬉しい言葉のはずなのに。
うまく言葉が出てこない。
荒々しく重ねられた坂本の唇が割り込むように銀時の唇を割って口内へ舌が差し込まれる。
日本酒独特の、鼻に抜けるようなあの匂いが銀時の鼻腔をくすぐる。
何度か角度を変え、互いの唾液を絡ませるような濃厚なキスの後、ゆっくりと唇が離れる。

「……わしはおんしの望むような家族にはなれんかも知れんき、許しとおせ」
「あーあー、いいって今更だしな」


三日後、船へと見送りに来た銀時に坂本がいきなり抱きついた。
これでは三日前と逆じゃのぅ、と少し拗ねた口調で坂本は言う。
いきなりの抱擁に成す術もなく、背中に手を回そうとした銀時の視線が坂本のそれと交わる。

「金時、坂本金時っつー表札、用意しとくちや」
「…あ?」
「坂本金時、いい名前じゃのー」

アッハッハッハ、と笑って坂本は船内へと戻っていった。
坂本金時様、と書かれた手紙を新八が受け取って、坂本さんらしい間違いですね。と呟くのはこれから三日後の事。

FIN




一周年おめでとうございます!
何か本当にこんな拙い文章で本当に申し訳ありません…!!
実際、高杉と戦ってもうちの辰馬は弱いから負けると思います…!高杉最強!

月城零