認められし人々


「ふっ、副長!!!」

スパァン!!
襖が勢いよく開き、土方は甚だ迷惑そうな目を山崎へ向ける。

「うるせェッ!!」
さんが人質で捕まりました!!!」
「あァッ!?」

咥えていた煙草からぽろりと灰が落ちる。
慌てて掌で火を消し常に帯刀している刀を腰に差し、立ち上がる。
中庭へ出れば既に山崎からの一報を聞いていたのか、近藤を始め、普段余り動きたがらない沖田でさえも其処にいた。

「行くぞ」
「はい!」



「一体どうしてそうなったんだ」
「いえ……街中で喧嘩がありまして」

それ自体は珍しい事じゃないだろィ、と横から沖田が茶々を入れる。
確かに。
火事と喧嘩は江戸の華と呼ばれるくらいだ。

「相手が攘夷浪士を名乗った瞬間に…さんがぶちきれて」
「で、捕まったのか」
「いえ、自分からついていきました」

その言葉に土方は思い切りずっこける。
絵にしたら「ずしゃあ!」という音が聞こえてきそうだ。
元々は攘夷戦争を生き延びた。
真選組の屯所の目の前で行き倒れになっているところを近藤と土方が保護し、現在に至る。
密偵の仕事の他に真選組の家事全般をまかなっているためか、彼女を慕う人間は多かった。

「あいつ…何考えてやがる…!!」
「瞳孔開いてましたよ」
「止めろ、山崎ィィィッ!」
さんが、心配要らないから。って」
「「「いや、それでも止めろよ!」」」

荒れ寺。
廃寺と言った方がしっくり来るだろうか。
シン、としている中からは物音一つせず、土方は思わず息を飲んだ。

「たっ、助けてくれ!」

そう言葉を発して転がり出てきたのは男。

「おい、女は何処だ!」

突きつけられた刀に縋るように、その刀身を掴む。
掌から血が吹き出ようとも、構わずに男は沖田の刀身をぎゅっと掴む。

「……あれ?土方副長。それに局長に沖田隊長まで」

のほん、とした口調で出てきたのはだった。
だが、握られた刀には僅かな血の痕がついている。

「斬ったのか?」
「え?嗚呼、この血ですか?これは……私の血じゃありませんよ」
「んなもん、見りゃ判る」

斬ったのか?
再びそう告げるように土方は刀身を見つめる。

「まだ斬ってませーん」

あはははは、とは笑う。
そして、ゆっくりと廃寺から降り立ち、のんびりとした口調で沖田に縋っている男に刀身を突きつける。

「以後、攘夷浪士を名乗るのはおやめなさいな。
私が攘夷と認めるのは…あの四人だけなんだから」
「わ…、わか、た」

縄をかけ、中に残っているであろう仲間達も捕縛するために隊士達は中へと向かう。
ふ、と刀をしまい、はゆっくりと土方の隣から移動を始めた。

「四人って誰だ」
「え?」
「お前が認める攘夷四人って誰だ」
「あァ。
ヅラに辰馬に、晋助に…白夜叉」

白夜叉?
土方は小さく呟く。
桂小太郎、高杉晋助は兎も角。

「辰馬って坂本辰馬か。快援隊の」
「御存知なんですか」
「アァ、まぁな」

それはそうと。
白夜叉だと?と呟く。
その答えを持っているのは、今時点ではだけだ。

「白夜叉は白夜叉ですよ、土方副長」
「……わかんねぇ」
「私の大事な人、でした」

過去形で話すに。
……生まれて初めて、名前だけの男に嫉妬した。

FIN
(2007/03/03)



土方!
何か続きそうな感じですよね、これ(笑)