game // ゲーム
『ゲームをしよう、。至って簡単なルールのゲームを。
タイムリミットは六時までの三時間。はその間の時間、逃げ切ればよいよ。
風紀委員会との鬼ごっこだ』
はぁはぁ、と大きく息をつきながらは廊下をひたすらに走る。
教師の言葉も聞こえない。
テスト前という事も手伝ってか、校内に残っている生徒はまばらで。
下駄箱で外履きに履き替えたが大きく息をつく。
ここまで風紀委員や雲雀に逢わなかったのはある意味奇跡だ。
携帯で時間を確認するとゲーム開始からまだ一時間も経過していなかった。深々と溜息をついて、は外に出る。
ふと、鬼ごっこで利用する敷地を指定されていなかったことに気付き、は背中に嫌な汗をかいた。
てっきり学校内だけだと思っていたのだが、もしかして外も含まれるのだろうか。
さっき逃げるのに不便になるからと必要最低限な財布と定期と、そしてミネラルウォーターの入ったペットボトルを見る。
「ああ…もう、小さな鞄にしときゃよかった!」
土曜日なのが幸いして、お弁当は持っていないから鞄を持って帰る必要はない。
…最も、母親に厭味の一つや二つは言われるだろうけれど。
きょろきょろと再びは周囲を見渡す。
矢張り、居ない。
追いかけてくる気配もなかった。
おかしさに不穏な空気を感じながらも、はゆっくりと校門を出る。
「よろしいんですか、委員長」
「いいんだよ。どうせ行き先は判ってるんだから」
その様子を見ていた雲雀がくすり、と笑う。
元から雲雀は追いかけるつもりもなかった。委員に追いかけさせるつもりも。
唯、雲雀はけしかけただけ。
……が家に戻るように……。
時折、背後からの足音にびくびくしながらもは家にたどり着いた。
安堵の表情で鍵を開け、中に入る。
土曜日だというのに父親は会社で(仕事人間だ、あの人は)
母親さえもカルチャースクールだか、何だかで家には居ない。
別に要らないけどね、あんな親。
と毒づいては部屋に入る。
疲れた表情で制服を着替えようとブレザーに手をかけた刹那。
「やぁ」
「!!?」
声にならない悲鳴が口からこぼれ落ちた。
窓からあっさりと雲雀が中に入ってきている。
「な、な、な」
「三時間経ってないのに油断したらダメだよ、」
にこり、と笑って雲雀は時計を指差す。
タイムリミットまで、まだ二時間は余裕である。
「だ、だ、だって追いかけてこなかった…!」
「当たり前じゃない。僕はとベッドに用事があったんだから」
その言葉には凍りついた。
慌てて外に出ようと部屋のドアに手を伸ばすの背中に追い討ちをかけるかのような雲雀の声。
「別に出てもいいけど…」
「?」
「残念ながら風紀委員が包囲しているよ?」
からり、と窓の閉まる音。
目の前にはにこりと妖艶に笑う雲雀。
噛み殺されるのも、風紀委員に捕まるのも嫌だ、とは考え、
諦めて雲雀の元に歩み寄った。
(くそう、最初から私に勝ち目なんかないんじゃないか!)
FIN