I believe all the lies〜全部の嘘を信じてあげる〜


「馬鹿だよね、は」

からん、とウィスキーの入った氷が解けてグラスに当たった音がする。

「……う」
「だから迷子になるんだ」
「イタリアが無駄に男が多いのがイケナイんだよ…」

ストレートのそれを飲み干すと雲雀はくつくつと笑って、グラスを乱暴にテーブルに置いた。幸い、置き方がよかったのか、余り派手な音を立てずにそれはテーブルの上に収まった。

「それは僕に対する言い訳?」

何杯目なのか判らない、ボトルから直接注ぐと雲雀は呷るようにそれを飲み干す。
僅かに光に反射する琥珀色の液体がキラキラと眩い光を放って、一枚の芸術画のように見える。

「金髪に頼めばよかったんじゃない?」
「ディーノさん、忙しい、し…」

テーブルを挟んで向こう側に座っているが指先を弄ぶように動かす。
買い物に行って来ると出たのが午前9時。帰ってきたのが、午後3時。予定では12時には帰ってくる予定だったんじゃない?
からん、と再び氷が鳴る。
迷子になって男に絡まれているのを助けたのは山本だった。
偶々通りかかって保護されて、泣きながら雲雀の下に帰ってきた。

(いきなりお酒呑み始めた時は怖いんだよね……お説教モードだ)

「もう少し自覚したら?」
「し、してるもん!方向音痴だって事くらいは!」

テーブルの反対側だからという安堵感もあったのか、は不服そうに唇を尖らせてぽつりと呟く。

「違うでしょ」
「へ?」
「男、惑わしてることに気付け」
「惑わしてなんか!」

立ち上がっての隣に座る。
外された黒ネクタイが床に落ちる。
ぐ、っと抱き締められて、思わず息が詰まった。
舐るようなキスと、まだ口内に残るアルコールにくらくらしながら必死にそれに応える。
もう、それは習慣なのだろう。
口内を弄る舌に必死に応えているの唇から自分の唇を離す。

「……ねえ、
「……?」

まだ少しぼんやりとしている頭を必死に覚醒させて、はゆったりとした動作で雲雀を見つめる。
雲雀の射抜くようなその視線を絡め取って。
無造作に置かれた手を取り、指を絡ませて握り締めると、ぴくり、と僅かには反応した。

「感じたの?」
「……感じてない!」

かぁ、と頬を朱に染めてはそう言い張る。
いつの間にか脱いでいた、黒のスーツの上着が床に無造作に放り投げられていて。
ちくり、と首筋に痛みを感じ、は顔を顰めた。
首から鎖骨にかけてキスしているだけの、淫らな発泡音に元々朱に染まっていた頬が、朱を通り越して紅に染まる。
おずおずと背中に手を回し、肩に顔を埋めて与えられる快感をやり過ごそうと必死に我慢している姿がいじらしくて。

「感じてるのに感じてないって言い張るその姿は表彰するよ」
「ちが……うもん」

くぐもって聞こえるその言葉に、雲雀は、くすりと笑いを溢してゆっくりとソファに身を倒した。

「仕方ないね。
今からが否定する全部の嘘を信じてあげるよ」

天井に取り付けられた蛍光灯が逆光になって、の目にはよく見えなかったけれど。
いつも以上に妖艶に微笑んだ雲雀が、楽しそうに耳元で囁いた。


(この僕がいつも以上に優しくしてあげたのにどうして剥れてるのかな?)


FIN


(Ti voglio bene様へ捧げました!)