It was said that thank you〜ありがとう、と言われた〜
「……うう、ヤダな…保健室……行きたくないよぅ」
でも四の五の言ってる場合じゃない、と腹を括っては目の前にある真っ白い扉に手をかけた。
引き戸を開けると独特の消毒薬の匂いがした。
この匂いが嫌で病院も保健室も嫌い。
「どうしたの?」
いつもと違う、若い少年(もしかしたら、私と同じくらいかも?)の声がする。
「シャマル先生は…?」
「今日は居ない。風紀委員っていうだけで押し付けられた僕でよければ診てあげる」
病院ではなく、保健室が嫌いな理由の一つである、シャマルが居ないと判っては小さく溜息をついた。
風に混じって香る、沈丁花の香りに安堵感を感じては少年が指差した椅子に座った。
「もう一度聞くけど、どうしたの?」
「………あ、あのですね」
相手がシャマルならシャマルで言いにくいが、相手が少年なら少年で非常に言いにくかった。
えぇと、とごにょごにょと口の中で言葉を濁す。
不意に、腕につけられた風紀の腕章に目を止める。
そういえば風紀委員って言ってたな、などと考えていると少年と目があった。
「お、おなかが痛くて」
嘘じゃない。
これは全く以て嘘じゃない。むしろ、言葉の響きだけ聞けば真実だ。
「で、ですね。少し寝かせてもらえたら嬉しいんです……けど……」
「いいよ」
あっさりと許可され、は面食らった。
相手がシャマルだとこうは行かない。
根掘り葉掘り聞かれ、最終的には『何故』痛いのかまで聞かれる羽目になる。
「生理痛でしょ?薬飲む?」
「………!!?」
思わず、の顔が真っ赤になる。
「違うの?結構真っ青な顔してたから、そうなんじゃないかとばっかり思ってた」
「ど……ど、してそういうデリカシーの欠片もない事を……」
「普通におなか痛いなら、さらっと言うんじゃない?」
全く以てその通りですよ!!
は叫びだしそうになりながらベッドに潜り込んだ。
これならセクハラっぽく聞かれたほうがまだマシだというものだ。
同年代の、それも男の子に真顔で言われるのが此処まで恥ずかしいとは思わなかった。
「さん?」
「何ですか」
何で名前?
そう思ったがベッドの脇にきちんとそろえた自分の上履きを見て納得がいった。
ダサいもので上履きの甲の部分に名前を書かされているのをは忘れていた。
そう思ってふっと少年の方を見たら、上履きじゃなかった。
「御免ね?」
「何を謝ってるんですか?」
カーテンで区切り、顔は見えないもののすっぽりと布団を被り、は消え入りそうな声を出す。
恥ずかしさがないか、といえば嘘になる。
「デリカシーなかった」
カーテンの区切られた隙間から水と薬が頭上に置かれる。
「あの、名前!」
「ん?」
「貴方の、名前です」
「雲雀だよ。雲雀恭弥」
聞かなけりゃよかった、と。
本当に後悔した。
あの最強の不良で風紀委員長。たとえ風紀委員に世話になる事がなくても名前だけは知っている。
その風紀委員長の雲雀にそこまで気を遣わせたとなれば間違いなく、噛み殺される。
「……雲雀、さん」
「うん?」
カーテンを少し開くとそこで目があった。
思わず頬が朱に染まる。
「有難うございます」
にっこりと笑ったそのの顔を見て。
不覚にも、彼女が来るのならもう一度保健委員の真似事をしてもいいと、
思った。
FIN
(Ti voglio bene様へ捧げました!)