I warn a teacher not to come out!
「さん、さん」
「あら、。どうしかしたの?」
「今日の授業で判らないところがあって……もしよかったら教えていただきたいな、って」
「いいわよ」
にこりとが微笑み、は安心したように教科書を開いた。
自分のノートとのノートを見比べて丁寧にまとめられたノートに感嘆の溜息を漏らす。
教科書とノートで交互に判りやすい説明を受け、は満足そうに微笑んだ。
「という事なの」
「流石さん…判りやすいです!」
にっこりと満面の笑みを浮かばせたをいい子いい子するように何度か撫でる。
と。
がらっとドアが開き、見慣れた二人が立っていた。
「レノ先輩、ルード先輩」
「お、二人ともお揃いで助かったぞ、と。今から新人歓迎パーティするから、理科室集合な、と」
「理科室?」
が不思議そうな顔をして聞き返す。
「ああ、理科室だ」
何故か得意そうな顔をしてレノがルードと連れ立って教室を出て行った。
帰り支度をしたまま、二人は理科室へと向かう。
だだっ広い校舎の南の端にある理科室には鍵がかかってなく、二人は中へ入る。中にはレノとルード、ツォンが居た。
「何故理科室なんですの?」
「数学の教諭室が共同だから使えないんだぞ、と」
「じゃあ、質問を変えますわ」
と、がぽつりと呟いた。
目の前の、実験をするために広く作られている理科室特有の机の上には、ガスバーナーに網、食材にジュース、しかも丁寧に割り箸に皿まで用意してある。
「何かしら、これは」
「もしかして肉、嫌いかな、と」
「……そんな事ないですわ」
既に熱せられて真っ赤になっている綺麗な網の上に置かれていく肉。香ばしい香りがあたりに立ち込めていく。
「…何故、わざわざ実験用具で料理をしなくてはいけないんですの!」
「ガスバーナーで焼くと短時間で中に火が通って美味いぞ、と」
「一応綺麗に消毒はしてあるから……」
不安そうな顔をしている二人を余所目にルードがビーカーを手渡す。その中へ注がれていくオレンジジュース。
200の文字のところまでいれるとレノは毀れないようにふたをして机の上にどんっと置く。
「かんぱーい」
「か…乾杯」
ひょいひょいと焼かれた肉が紙皿の上に置かれていく。
恐る恐るビーカーに口をつける。見たところ新品のようなので安心して喉に流し込んでいく。
「……許可はしたが本気でやるとは思わなかった」
ツォンが諦めたように焼かれた肉を口へ入れる。
どうやら、冗談だと思ったらしい。
「それにしても綺麗ですね、理科室。使ってないんでしょうか」
差し出された肉を摘みながらは不思議そうに誰にではなく、全員に、というように尋ねる。
「ああ……実験とか余りしない学校だしな、ここ、と」
「そもそも理科という授業がない……」
道理で実験器具とか綺麗だと思いましたわ、とその言葉の御陰で食欲が出たらしいがぱくぱくと食べ始める。
流石に塩酸や色々な危険物質を扱った後の道具だとしたら食欲は湧かないらしい。
はというとごくり、と喉を鳴らして未だ不安そうな目で肉を見ている。
「?喰わないのか、と」
「あ、いえ。い、いただきます」
確かに、短時間で焼かれた肉は美味しい。
が、忘れてはいけない。
ここは理科室だ。そして目の前に居るのは教師と先輩。
「、眉間に皺よってるぞ、と」
「余り堅苦しく考えなくて良い…」
レノとルードが交互に助け舟を出してくれる。
「いえ、そ、そうじゃないんですけど!…他の生徒さんに見られたりしたら、困りませんか…?」
ようやく不安だった言葉を吐き出すことが出来て、はほっと胸をなでおろす。
「心配ない。ここは元々タークスの持ち物何だよ、」
ツォンが椅子を引き出して座る。
「え?」
「歓迎パーティのついでに話をしてしまおう。今は理事長室が本部になっているが、レノ達が入学した頃はここを使っていたんだ。
ただ、ここだと目立つだろう?幾ら校舎の南端にあるとはいえ」
ああ、それで。とは納得した表情をする。
道理できちんと揃えられた実験道具は使った形跡もなく、放置されているわけだ。
「つまり、理事長室にレノが出入りするのはお叱り受けてるせいだと思わせたかったわけですのね?」
ビーカーに注がれたオレンジジュースに口をつけながらはぽつりと呟く。
一瞬だけ、戸惑った表情を浮かべたツォンが「まあ、そんなところだ」と曖昧に言葉を濁す。
その表情で、それが違うという事くらいは気付いていたが、あえて言葉には出さなかった。
いずれ。
きっとツォンやレノの口から真実が語られるであろうから。
ビーカーのオレンジジュースを持ち上げたレノがにっと口角だけあげて笑う。
「じゃあ、ここのビーカー達が綺麗なのがわかったところで改めて乾杯だぞ、と」
その言葉につられて全員がビーカーを持ち上げた。
「乾杯、と!」
かちん、とビーカー同士のぶつかる乾いた音が耳に響いた。
FIN