I finish protecting only you


「…頭、痛い…」
誰が聞いている訳でもなく、はぽつり、と呟いた。
昨日、シャワー室で一緒の仕事だったソルジャー達の台詞が耳から離れない。
きっと。今日いったら、何かまたいわれる。
(…会社、行きたく、ないな)
休むと連絡すればレノ辺りが心配して見舞いに来るかも知れない。
仮病だと判ったら怒られるかも知れない。
何より。
自分の持っている仕事のせいで誰かが残業になることをは恐れていた。
「行かなきゃ、いけない、よね」
誰かに、
迷惑がかかってしまう。
よろよろと起き上がってはパジャマのボタンに手をかけた。
刹那。
部屋の中にチャイム音が響く。
覗き穴から覗くとそこには見慣れた黒髪があった。
「ザックス?」
「よ、。チェーンつきでいいから顔見せてくれよ」
「ちょ、ちょっと待って!私今起きたばかりで…。着替えるからちょっと待ってて!そうしたらあげてあげられるから!」
あたふたとパジャマからスーツではなく、淡いブルーのワンピースに着替えるとは慌ててチェーンを外し、鍵を開けた。
「寝てたのか?具合でも悪い?」
「ん…そんな事、ないわ。大丈夫よ、ザックス。ちょっと寝不足だっただけ」
カチャカチャと食器を鳴らしながら、はザックスの前へ珈琲を置く。
ふとザックスの方を見ると今日は武器の大剣は持ってきていないらしい。
最も、ソルジャーなのだから短銃くらいは所持しているだろうが。
「昨日、タークス所属のレノがうちのソルジャー二人にちょっかい出してきた」
「な…!」
「ま、あれはこっちに全面的な否がある訳だから、それに関してはレノを怒ったりしないでやってくれな。
しっかりと俺の方でソルジャー達にはお仕置きしておいたしさ」
そこまで言ってザックスは珈琲を一気に飲み干す。
「あづっ」
「気をつけて、ザックス」
「あいつらには無期限の自宅謹慎を言いつけてある。そこで本題だ、
真剣な瞳でザックスはを見つめる。
「ソルジャーに戻らないか?」
「わ…私は…!」
「確かにを『死神』と恐れる奴は多い。だが、俺達にはお前の力が必要なんだ、
真剣な瞳には思わず息を呑んだ。
ソルジャーに戻る。
それは即ち。
…レノとの縁を切るということ。
「前の報告書を読んだんだが、…お前、躊躇していただろう」
「だ、だって…あそこにはまだ村人が残っていたわ!」
「それが、らしくないって言っているんだ。以前のなら何の躊躇もなくぶっ放していたはずだ」
バンッ!!!
の手がテーブルを激しく叩く。
ガチャン、とカップが揺れるがザックスは何でもないようにを見ている。
「それが嫌なのよ!私は…ソルジャーとして行ったんじゃない!タークスとして行ったの!」
「だが、結局は撃ち殺したじゃないか」
さらりと言うザックスの言葉が耳に入らない。
否、
素通りしていく。
目の前に、
血、血、血、血…
生きていた人から流れ出ていく、血の色が過ぎる。
「お前は、ソルジャーで、生きるのがあっているんだよ、
ヤメテヤメテ。
「ソルジャーに戻れ、
ヤメロヤメロヤメロ。
ウルサイウルサイ!!!
お前に何が判ると
ピンポーン
はっとは我に返った。
危うくトランス状態になるところだったを正気に戻るかのように、チャイムは立て続けに何度も何度も鳴らされる。
「…!居るんだろ!!」
「…レノ!」
焦る気持ちを抑えながらは鍵を開ける。
「王子様の到着か、ざーんねん」
茶化した感じでザックスは言う。
どっどっと心臓の鼓動は激しくなっていく。
落ち着け、落ち着け、と何度も呟き、は必死に深呼吸をしながらレノを出迎えた。
「やあ、ソルジャーのエースさん、と」
「遅かったね、タークスのエース君」
レノを押しのけるように外へ出るとザックスはの方をむいてにっこりと笑った。

…さっきの件、考えておいてくれよ」
バタン、とドアが閉まる。
後ろ手で鍵をかけ、レノはを連れて勝手知ったる何とやらというもので中へと入り、テーブルの上にあった珈琲カップをさっさと片付けた。
「ソルジャーに戻った方がいいと思う?」
「は?」
ざーっと水の流れる音。
ごぽごぽと音を立てて排水溝へ流れていく音に耳を傾けながら、は言葉を紡ぐ。
「私、ソルジャーで生きるのがあってるんだって。ザックスに言われちゃった」
今が余りにも幸せすぎて。
今が余りにも、満足しすぎて。
「…戦う意味を忘れちゃったのかも、知れないね。私」
「戦っていたいのか?」
タオルで濡れた手を拭き、レノはの前に立てひざで座る。
その言葉を返せず、は視線を泳がせた。
ぐっと両手で頬を挟まれ、レノは無理矢理視線を合わせる。
「戦って、いたい?
前線で血肉にまみれて、生きていたい?」
「や…っ」
「や、じゃないだろ、と。これは、真剣な問題何だ、と。
俺はが戦っていたいっていうのなら応援はする。だが、お前が真剣にそれを望んでいないなら、俺は本気でソルジャーに戻るのを阻止する。
……非合法的な方法を使ってもな」

To Be Continued