Your eyes seem to be totally emerald, and it is ...



優しい声音が任務終了のため、報告書類を書いていたの耳に届く。
「ハッピーバースデイ、
にこりと微笑んでが綺麗にラッピングされた箱をの前に置く。
「ね、開けてみて」
「あ、ありがとう」
ペンを置き、綺麗な指で赤いリボンを紐解いていく。中にはビロード調のケースが入っており、中を開くとアップル・グリーン色のクリソプレースのついたネクタイピンが入っていた。
「わぁ…」
の誕生石でしょう?似合うだろうなって思って買っておいたんだけど…うん、似合うわ」
黒いネクタイに一際映える、クリソプレースとシルバーの土台には感嘆の溜息を漏らす。
とはタークスに入ってから一緒になった。しかし、旧知の仲とでも言おうか。趣味も考え方も、全く違うというのに互いの誕生日にはカードとプレゼントを贈りあう仲になっていた。
「お、綺麗なものつけてるな、と。
後ろを通った赤髪の…言わずもがな、レノだ…が、足早に動かしていた足を止め、のネクタイにつけられたピンを見つめる。
一瞬、きょとんとしたにレノは僅かに微笑み、トントンと自分の胸元を指差した。
「あ…これは…が贈ってくださったんです」
綺麗な金髪を揺らしながら、は微かに俯き答える。
「…あ、いけない。、レノ。お願いがあるのだけれど」
にっこりと満面の笑みを浮かべてとレノを交互に見た。


「なーんで、俺がこんなことしなくちゃいけないんだよ、と」
「すいません…には後で私から厳しく言っておきますから…」
が頼んできた仕事は早い話が資料探し、である。
膨大な資料がファイリングされている書庫の何処にあるんだか判らないような、「ニブルヘイム魔晄炉建設について」などというファイルを探してこいと言われたのだ。
元々はツォンに言われたらしく、は悪びれた様子も見せずに
『私、これからと緊急に任務になってしまったのよ。ツォンさんへは私から連絡しておきますから、お願いできないかしら?もう夜ですけどこれから任務に行くよりは楽ですよね?』
と言い放った。
かくして、とレノは連れ立って地下にある埃が舞い散る、薄暗い資料室に閉じこもる結果となった。
「お。あの紫の背表紙のじゃないか、と」
「みたいですね、すいません、取っていただけますか?」
レノが指差した方を見ると確かに「ニブルヘイム魔晄炉建設について」と金の文字で書かれている。
踏み台を乱暴に引き寄せるとレノは身軽に乗り、ファイルを引き出す。パンパンと手で埃を叩き落とし、レノは雑巾を持って待機しているに手渡す。埃を拭き、とレノは連れ立って資料室を出ようとした。
…刹那。
「…あ、あれ?」
「どうしたんだ、と」
「すいません、開かないんですけど…」
滅多に慌てふためいたりしないが慌てた様子でドアとレノを交互に見る。
「…まさか!」
が慌てて腕時計を見る。針は十時ちょっとすぎをさしていた。
機密保持のため、社員が居ても居なくても神羅ビルは夜十時になると入り口以外のドアが施錠される。時間を全く気にしていなかった達にも責任はあるが、問題はどうやってここを抜け出すか、だった。
レノが何度かドアノブを回していたが、うんともすんとも言わない。電磁ロッドで破壊してもいいのだろうが、流石に怒られるだけじゃすまないだろう、とレノは呟き、それをやめた。
「ま、朝になれば自動開錠されるだろ、と。不便だけど仕方ないよな、と」
諦めたのか、床に積まれているダンボールを押しのけ、レノはどっかりと床に座った。
元々薄暗い資料室の中から光が失われる。
元来真面目な性格のせいか、父親の厳しい躾のせいか、は男性を交際した事はなかった。神羅軍事学校にいた時も、周りの女生徒達が誰がかっこいいだの何だのと言っていた話に加わる事もできず、ここまで育った。
「ちょっと寝とけよ、と。じゃないと明日の任務きついぞ、と」
ばさっとの上に何かが投げられる。
「夏に近いとはいえ、まだ寒いからな、と。俺の上着、嫌じゃなかったら被ってろよ、と」
「すいません、…有難うございます、レノさん」
壁に寄りかかるように座り、は受け取った上着を上から羽織った。

きっとレノは今までもこういう状況に陥ったことがあるのだろう。
じゃなきゃ、タークスのエース何て名乗れないんだろうな。
女遊びも派手らしいって前食堂で誰かが言ってたっけ。
…好きな人居るんだろうか…。
好きな人…じゃなくてきっと恋人が居るんだろうな…。
いるよね、きっと。だって、こんなに優しくてカッコいい…。

胸の辺りが苦しくなって、は思わず唇をかみ締めた。
レノが他の誰かと連れ立って歩いているのを想像するだけで。
レノが他の誰かに、普通の恋人同士がするように言葉を囁きあっている姿を想像するだけで。
胸が苦しくなる。
あふれ出しそうになる涙をぐっと堪えて、は無理矢理目を瞑った。
もやもやしている気持ちが、周りの暗さと交わって
いつの間にかも眠りに就いていた。
どのくらいの時間が経過したのか、はレノに肩を揺さぶられて目を醒ました。
「もうそろそろ開錠なはずだぞ、と」
「え…あ、…はい」
握り締めていたレノのスーツの上着はが力いっぱい抱き締めていたせいか、ところかまわず皺を作っていた。
「…す、すいません!レノさん…これ…」
「ストップ、と」
レノがの唇に指をあてる。
「そんなに、すいませんを連呼するんじゃないぞ、と。は何も悪いことをしてないだろ?と。すいません、は本当に悪いことをした時のためにとっておくんだな、と」
「すいません」
「ほら、まただ、と」
くすくすとレノが笑う。
取り合えず謝っておけば何も波風が立たないのをは軍事学校で学んだ。最も、それは戦場に出ればなんら関係のない事。だが、人間関係を築くのが苦手なにとって、それは唯一の生き延びる手段だった。
「俺達は仲間なんだぞ、と。仲間同士、通常の会話に、すいませんなんていらないぞ?と」
すいません、と言いそうになった言葉を飲み込んではまっすぐ前を向く。

だって…誰もそんな事教えてくれなかったわ…。
最初に言っておかないと誰も何もしてくれなかったもの…。

「はい、レノさん」
「よし、いい子だぞ、と。いい子ついでに…お?」
ドアノブを回したレノがドアをそのまま開く。
ドアが開き、朝日に目を細くしながらエレベーターの上にかけられた時計を見ると針は朝七時をさしていた。
んんーと2人で背伸びをし、互いに顔を見合わせて笑いをこぼす。
「俺が何でその上着を渡したか、判るか、と」
窓を開け、新鮮な空気を中へ取り込みながら、レノは窓枠に寄りかかる。
まだ上着を握り締めたままだったは慌ててレノにそれを返そうと近寄る。
「内ポケット、見てみろよ、と」
小さな箱を取り出し、レノはそれをの手から取り上げた。
「目瞑ってろよ、と」
あたりなら疑ってかかるのだろうが、元来真面目な性格のせいか、言われたとおり目を瞑る。
「…Happy Birthday」
「…な」
左手の薬指にはめられた、小さなエメラルドのついた指輪。
「エメラルドはの瞳と同じ色で…。俺はと一緒に居るとエメラルドの宝石言葉と同じ意味の状態なんだぞ、と」
「え?エメラルドの宝石言葉って何々ですか?そもそも、どうして私の指輪のサイズを知っているんですか?というより、他の女性にも同じ事をするんですか!?」
矢継ぎ早に言葉を発するの頭に手を乗せ、軽く撫でる。
「俺をどう思っているのか知らないけど…他の女に指輪何て贈った事はないぞ、と。それからサイズはが教えてくれたんだぞ、と。…宝石言葉は…」
暫く迷い、レノはの腰に手を回して引き寄せた。
耳元で低い声で囁く。
「幸福、幸運だぞ、と」
真っ赤な顔をしてはレノを軽くにらみつけた。

FIN