Your eyes seem to be totally emerald, and it is ...
His and her circumstances that I act as go-between


「お、居た居た、と」
が食堂ではなく、洒落たオープンカフェで優雅に紅茶とサンドウィッチを注文した直後、そのカフェの前をレノが通り、に声をかける。
「どうしたの?珍しいじゃない」
「別に飯喰いに来た訳じゃないんだよ、と。ちょっと聞きたい事があってな、と」
「立ち話も何ですし、相席でよろしければどうぞ?紅茶なら奢ってあげるわ」
ソレハドウモ。
聞こえないくらい小さな声で呟いてレノは入り口のドアを開けた。
中はウェスタンカントリー調にまとめられていて客層は若い女性が多いようだった。近づいてきたウェイターに待ち合わせだと告げ、さっさとオープンテラスへ向う。
が手を挙げ、レノに存在を示す。
椅子に座ると先ほどのウェイターがメニューを持ってくる。
「私と同じ紅茶を彼に」
「畏まりました」
そのまま一礼し、ウェイターは厨房へ入っていく。
レノが椅子に座ると同時に出された水を豪快に一飲みするとレノは落ち着かない様子でを見つめる。
「…そんな黙っていても判りませんよ?」
すらりと長い足を組み替えては呟く。
「まあ、判ってますけど。
用件はの事…違いますか?」
クリスタルガラスで作られたテーブルの上に肘を付き、指を組んでにっこりと笑う。
「な、な…」
「もう少しでの誕生日ですものねぇ。それで?レノは何を贈るつもりなんですか?」
「お待たせいたしました」
2人の会話を遮るようにウェイターが温められたティーカップと茶葉の入り、蒸しの状態のティーポットを二つ。そしてサンドウィッチをの前へ置く。
失礼致します、と一礼し、彼は再び中へ戻っていった。
「私に用事何て今の時期、それくらいしか思いつきませんのよ?…それとも、この私に以外の事で何か弱味を見せるおつもり?」
くすっと口端だけで微笑む。
ぐしゃぐしゃと髪をかくと、レノはテーブルに突っ伏す。
「…お…女の子は何あげたら喜ぶんですか、と」
「アクセサリー系何てどうかしら?大概の女性は喜ぶものだと思いますけど?」
中には喜ばない女性も居ますけど。と言葉をは飲み込んだ。から恋愛の「れ」の字も聞かないが、時折無意識の内にレノを追いかけているのをは知っている。
つまり、それは。
もレノに対して決して悪い感情を抱いている訳ではない証拠。
は何贈るんだよ、と」
「タイピンよ。クリソプレースのついた、タイピン」
砂時計の砂が全部落ちきったのを見計らい、は自分とレノのティーカップへ紅茶を注ぐ。
「何だ、そのクリ…何とかって、と」
「クリソプレース。グリーン・アップルの色の宝石よ。の誕生石なの」
そこまで言っては紙ナプキンを一枚取ると傍らに置いてあったハンドバックからペンを取り出し、さらさらと紙ナプキン上に文字を書き込んでいく。
住所と電話番号、そして、エメラルド(宝石言葉は、幸福、幸運)と書き、レノの前に吊り下げる。
「何だよ、と」
の事好きなのでしょう?」
無言のまま、紙ナプキンを奪おうと手を伸ばしたレノを軽く睨みつける。
「答えないうちは差し上げません」
「…好きだって言ったら何だよ、と」
「なら、これを差し上げましょう。ここなら色々な宝石やアクセサリーがそろってますからね。…そうそう、それとの指輪のサイズは10号よ、念のため」
根っからのお嬢様育ちの所以だろう。は気付かず他人に世話を焼く事が多い。
「行ってみたら如何?仕事終わってからだとカップルが多くて一人じゃ寂しいわよ?」
殆ど冷めて温くなってしまった紅茶を一気飲みするとレノはテラスの手すりを飛び越えた。
「手のかかる人だこと」



に教わった店の外装は宝石店というよりはバーのような感じだった。
壁は黒く、入り口には黒服の男達がガードマンなのだろう。対に立っていた。
中へ入るとショーケースの中に各種色々な宝石類が並んでいる。はっきり言ってどれがどれなのか全く判らない。
頭痛がし始めたところに、その店の主人が近づいてきた。
「何をお探しでしょうか」
「あー…と、エメラルドを」
色素の濃い、黒髪のアジア系の店主にそれを告げる。
ショーケースの中に入っている箱を出すと店主は広げた。
綺麗な緑色の宝石が並んでいる。
「へぇ…これがエメラルドなのか、と」
白い手袋を嵌め、レノは小さな石を光に透かす。
「エメラルドの緑色はクロムとバナジウムが原因で作られているんです。内部に傷のないものは殆どなく、ひび割れや傷を埋めたり、発色を良くするためにオイルにつけたりも致します。材料のロスをなるべく小さくするため、エメラルドカットと呼ばれる、ステップカットを施すのが一般的ですね」
「ふぅん」
店主の言っている事の一つも理解できなかったが、レノはそのうちの一つに目をやった。
「…なぁ、これ…指輪にすることってできるのか、と」
正方形にカットされたエメラルドは。
光に反射してキラキラと輝いている。その光を見ながら、何故かの瞳が思い出される。
「指輪に加工でございますか?勿論、させていただきます。相手様の指輪のサイズは如何程でしょう」
「…10号、だったはずだ、と」
は悪巧みはするが決して嘘はつかない。
「かしこまりました。では、こちらの注文書に…」
差し出されたままに名前を書く。
「あ、なぁ。クリソプレースっていう宝石は扱ってるか?と」
「ええ、ございますよ。お持ちいたしましょうか?」
「ちょっと見せて欲しいぞ、と」
「かしこまりました」
ぺこりと頭を下げ、店長は漆黒の宝石箱を取り出した。
カチリと錠の外れる音がし、中には淡いグリーン・アップル色の宝石が並んでいた。
「へぇ…綺麗だな、と」
「ええ、こちらの石も…」
店長が説明をしているが、半分も耳に入らない。
箱の中にはタイピンが入っていた。
「ん?」
「ああ、申し訳ございません。こちらは売り物ではないのですよ。お得意様の方が注文されたものでして…」
か」
何の気なしに呟いた言葉だったが、店長の顔色が変わったのが目に見えて判った。
様とお知り合いでございますか」
「いや、ちょっと仕事の関係上な、と」
語尾を濁す。
「然様でございますか。様のお知り合いの方となれば、下手な品物はお渡しできませんね。最高の仕上がりとさせていただきます」
「ああ、頼んだぞ、と」
仕上がりは明日になるといわれ、引換証と名刺を手渡され、レノは店を出た。
店を出るとそこにはが居た。
「お目当てのものは見つかりまして?」
「助かったぞ、と」
「どう致しまして、レノ」
隣を歩く、自分と殆ど身長が変わらない(決してレノが低いわけではない)も何時かは誰かを想って誰かのためにこの店で指輪を買うのだろうか。
「なあ、
「何か?」
「お前…好きな人って…」
ぴたりと足を止め、振り返ったレノの瞳に映ったのは、憂いを帯びるの顔。
「…そんな人、もう居ないわ」
「忘れてくれ、と」
の口からその人の事が語られるのは、これから一ヶ月の後の事。

翌日。
レノとは一緒に店へ顔を出した。
当然、レノはキャッシュで払ったわけだが。
ビロード調の宝石箱に入れられたネクタイピンは矢張り照明を受けて、キラキラと光り輝いている。
レノの方も、高級な素材の箱に入れられ、加工されたエメラルドが同じように光り輝いている。
「後は…これをどう渡すか、だな、と」
「あら。それについては私に任せて頂けない?決して悪いようにはしなくってよ?」
「本当だな?」
「えぇ、だってレノの事は好きなはずだもの。の気持ちをはっきりさせない内は、は指輪何て受け取ってくれないと思うわよ」
きっぱりとは言い放つ。
誕生日当日。任務から帰り、報告書を書いているはそっと近寄った。
「ハッピーバースデイ、
が驚いた表情でを見る。
「ね、開けてみて」
「あ、ありがとう」
がしゅるしゅるとリボンを紐解き、中に入っている箱を開ける。
中にはあの店で注文したネクタイピンが横たわっている。
「わぁ…」
の誕生石でしょう?似合うだろうなって思って買っておいたんだけど…うん、似合うわ」
クリソプールのついたネクタイピンを取り上げ、のネクタイにつける。
そこへ打ち合わせどおりにレノが現われ、の前で止まり、レノは自分の胸元をトントンと指差し、それを褒めた。
「…あ、いけない。、レノ。お願いがあるのだけれど」
…そう、資料室へ直行させられたのだ……。
(…確かに二人っきりでいい雰囲気だけども!何で資料室なんだよ、と)
に頼まれた「ニブルヘイム魔晄炉建設について」というファイルをレノは目を細めて探す。
高い場所に、それを見つけ、に懇願され、それを取る。
しかし。
資料室の鍵がかかっており、開かない。てっきり、のせいだと思っていたのだがそれは濡れ衣だったらしい。
上着を脱ぎ、それをへ渡す。
ワイシャツ一枚で寒くない訳がないが、それ以上にがこの状況でどう思っているのかが気になり、寒さどころではなかった。
かっこつけて、ちょっと寝とけとか言った自分を憎んだ。
任務?
そんなもの、どうだっていい。
問題は、買って上着の中に仕込んである指輪に気付いてくれるかどうか。
気付かれなければどうやって気付かせるかどうか。
電気の消えた資料室は、ちょっと先に居るであろうの姿すらも隠し、レノ自身の悶々とした、鬱蒼としている気分をも隠していく。

いつだって、言葉の最初に「すいません」をつける
物腰の柔らかい言い回しをし、いつだって顔色を伺うように行動している。
だけど。
でも。
俺は、きっと。
そんな君を好きになった。

悶々としたまま朝を迎えていたらしい。
いつもの癖で、同じ時間、大体七時に頭がすっきりと目覚めてくる感覚。
「もうそろそろ開錠なはずだぞ、と」
言いながら、四つんばいの状態でレノはを手探りで探し当て、肩を揺する。
すぅすぅと規則正しい寝息を立てていたが目を醒ます。
レノのスーツを皺だらけにした事を、またすいませんと謝るの唇に指をあてて、それを制する。
「俺達は仲間なんだぞ、と。仲間同士、通常の会話に、すいませんなんていらないぞ?と」
「はい、レノさん」
しかし、そのまま上着を返そうとしたところを見ると指輪には気付いていないらしい。
このままではに何て言われるか判らない。
(…強硬手段に出るか、と)
ドアが開き、地下とはいえ、一応天井に硝子がはめ込んである御陰か、朝日が燦々と降ってくる。
んーと背伸びをし、は慌てて上着をレノへ差し出した。
「内ポケット、見てみろよ、と」
きょとんとした顔をして内ポケットから小さな箱を取り出したはそれをレノへ差し出した。取り上げ、箱の包みを開ける。
「目瞑ってろよ、と」
素直に閉じられた瞳。
これと同じエメラルド色の輝きが、一瞬消える。
の贈ったタイピンのクリソプレースがキラキラと輝く。
指輪を取り出し、の左手の薬指にはめる。
「…Happy Birthday」
緩くもきつくもない指輪は、白い肌のの指にしっかりとはまる。
まるで、何年もつけていた指輪のように。
エメラルドはの瞳と同じ色で…。俺はと一緒に居るとエメラルドの宝石言葉と同じ意味の状態なんだぞ、と」
「え?エメラルドの宝石言葉って何々ですか?そもそも、どうして私の指輪のサイズを知っているんですか?というより、他の女性にも同じ事をするんですか!?」
やれやれ。そう来るのか。
苦笑して、レノは箱を閉じた。
多分、俺は今、最高に照れた顔をしているんだろう。
「俺をどう思っているのか知らないけど…他の女に指輪何て贈った事はないぞ、と。それからサイズはが教えてくれたんだぞ、と。…宝石言葉は…」
そう。俺は女にプレゼント何て一切しないタイプだからな、と。
ぐっとの腰に手を回し、一気に引き寄せる。
ここまで本気で口説きたいと思ったのは、お前だけだぞ、と。
「幸福、幸運だぞ、と」
だから、そのエメラルド色の瞳で俺を見張っててください。

To Be Continued