Open, and shoot a box of Pandora!


ファイルを握り締め、は部屋の中で一人で膝を抱えていた。
このファイルを開けば、世界は変わる?
このファイルの中を開いたら、世界はどうかなる?
薄暗い部屋の中では震える指でファイルの表紙を開く。
機械的な文字で、指令書と淡々と綴られた文字を目で追っていく。
それは。
レノに向けられた指令書で。
顔写真の隣にはアッシュではない名前が綴られていた。
だが、そこに挟まれていた顔写真は紛れもなく、アッシュの写真だった。
「…アッシュ」
ぽた、と涙がこぼれる。
「アッシュ、アッシュ…ッ」
反逆の罪。
そう書かれた、指令書の一枚をびりびりに引き裂く。
「反逆…!?魔晄の所為で綺麗な銀髪じゃなくなっちゃって!それを隠すために茶色くした……アッシュの気持ちがわかるか!アッシュも、私も、タークスもソルジャーも!神羅の玩具じゃない!!!」
引き裂いて小さくなった紙をベランダから投げ捨てる。
月の光を受けて紙がキラキラと輝きながら落ちていく。
「あはは……。あははは…っっ」
真実なんて判ってしまえば単純なものよ、とはベランダで泣き崩れる。
アッシュは結局、神羅の中では悪だった。だから、殺された。
「……魔晄の危険性を唱えるタークス何て、邪魔なだけって事よね……結局…っ」
知りたくなかった、知ったらいけなかった!
自分の婚約者が何故死んだのか何て気付いたらいけなかった。
ずっと想って生きていけばよかった!
「馬鹿みたい…」
このパンドラの匣の中には希望何てなかった。絶望しか、残ってなかった。


「…おはようございます」
重たい足取りを引きずるようにエレベーターから降りるとタークス本部は若干ざわめいていた。
昨日、資料室に侵入者があったと口やかましくがなりたてている男が居る。
(ハイデッカー、とかいう……違ったかしら)
「お前は知らないか!?」
一人一人に威圧的に指を突きつけながら聞いていく男に寝不足の身体が拒否反応を起こす。
「内部の犯行だと決め付けてらっしゃるのね」
「…っ」
ツォンの顔色が変化したのをは見逃さなかった。
…これは確実に…怒られるな、と心中で呟く。
「外からの侵入の形跡がなければ内部犯だと思うしかあるまい!」
「……その威圧的な態度、口汚い言葉、総てが吐き気を催して仕方ありませんの。…タークスにそんな犯罪を犯すような人は誰一人居ませんわ。…今すぐ、ここから去っていただけます?」
すっと出口を指差す。
「お気づきでしょう?この部署、キレると何するか判らない人がたくさん居ますのよ?」
それは勿論、私も含めて……。
ただでさえ、昨夜のことで寝不足なところにこの男の存在は腹立たしかった。
自分のデスクに立てかけてある散弾銃をこの場でぶっ放したらどれだけすっきりするだろう、とはちらりとそちらを見やる。
その視線に気付いたのか、レノがの前に立ちふさがる。
「ま、そういう訳ですから、早くお引取り下さい、と」
ちっと荒々しく舌打ちをするとハイデッカーは分厚い扉をものともせずに出て行く。
「……レノ」
「あん?お礼なら気にするなよ、と」
「違うわ。…昨日の、例のもの……絶望だけしか残ってなかったわ」
化粧で隠し切れない隈を見てレノは言葉に詰まる。
「レノ!!」
強い口調で呼ばれ、レノとは渋々といった感じでヴェルドの前に立つ。
延々と続くヴェルドの小言も耳に入らない。
【レノ、今日の副社長の予定って判る?】
【副社長の?………副社長室に居るんじゃないのか、と】
【そう、有難う】
パンドラの匣の中に絶望しかないのなら、その絶望をどかして希望を引っ張り出してやる。
希望何てなくても構わない。
「反省してるのか?」
「はい、申し訳ありませんでした」
「でした、っと」
そのままデスクへは戻らずにタークス本部を出て行く。
小さな短銃一つを身につけ、エレベーターに乗り込むと滑るようにエレベーターは上昇を始める。
エレベーターホールの向こう側にあるネームプレートに書かれているのは副社長室の四文字。
軽いノックの後、「どうぞ」とルーファウスの声がする。
「失礼致します」
オートロックを確認すると施錠が完全にかからないように鍵穴に布を小さく切り裂いたものを詰め込む。
「タークスの……確か、君だったかな?」
「今日はタークスとしてお話に来たのではなく…としてルーファウス副社長にお話がありまして」
「ほう」
の名前は副社長にも有効らしく、ルーファウスは椅子から降りた。
「アッシュ=フレイビートを御存知でいらっしゃられますね?」
「さあ?」
「数年前までタークスの一員でしたわ。神羅の軍事学校を首席で卒業、タークスに鳴り物入りで入社した男……最も、レノが入社したとき、任務と称して殺害されましたけど」
指を組み、ソファに腰深く座るとルーファウスはじろりとを見る。
「私がその彼を知っていたとして、何か不都合でも?」
「……このマイクロチップは、アッシュが私に遺したモノです。中には神羅を潰せるだけの情報が入ってます」
「いくらで買えと?」
「…御冗談を。私は知りたいだけです。…アッシュが死んだ真相を」
「知っていても話す訳にはいかないな。…そして、そのマイクロチップは君を殺して奪ってもいい」
哀しげな瞳を見せるとは腰元から短銃を取り出す。


「…おい!聞こえてるのか、っと」
『電話口でぎゃんぎゃん騒ぐな、五月蝿い』
「五月蝿いとは何だ、五月蝿いとは!……アンタの大事なが副社長室に入ったきり帰ってこないぞ、と」
『…俺様が神羅ビルに入れると思うのか?先日の侵入事件で偽の身分証明書は使えないだろうからな』
「……俺が、手引きをしてやってもいいぞ、と」
電話口で嘲笑が聞こえる。
『手引き?赤毛が?俺様を手引きしてタークスをクビになった何て責任転嫁されたら困るんだがな、俺様』
「……アンタ、前俺を信用してくれたな。だから俺が今度はアンタを信じるぞ、と」
『信じる?』
「………が大事なんだろ!?男なら助けに来い!」
がちゃんと乱暴に電話を切る。

ガウン、ガウン!
ルーファウスの真横を弾が通り抜ける。
「本気ですのね、ルーファウス」
微動だにしないルーファウスを前には溜息をもらした。
「貴方は危険因子だわ、ルーファウス。これから先、きっと貴方はこの会社の社長になる。それは絶対に決定事項よ。誰も覆す事は出来ないでしょうね。会社が…この神羅が潰れない限り」
「だから?だからなんだというんだね、君」
同じようにルーファウスもに銃を突きつける。
「私を殺してマイクロチップを奪ったところで、無駄ですわ。ルーファウス」
緊迫。
「何が無駄だというのかね」
かちり、と引き金が引かれた音がする。
至近距離で外すつもりはお互いなかった。
嫌な空気だけが辺りを包み込む。
「私が本当に本物を持ってきたとお思い?」
「別にそれが本物じゃなくてもこちらは困らない。…君が死んだ後、君の身体、君のデスク、君の家、君の別宅、総てを捜索させてもらう」
「…そう、そうね」
も素早く引き金を引き、ルーファウスに向かって照準をあわせた。
「…Good by」
「…!」
それは
一瞬の出来事だった。
ルーファウスの放った弾丸が壁に当たるのと。
がルーファウスの視界から消えうせたのと。
「…な!?」
飛がを抱きかかえて横に倒れなければ間違いなく、ルーファウスの肩に弾が当たるより先にの心臓を貫いていた。
その事実に飛はぞっとする。
「何者かね、君は」
「……俺様が何者だろうとアンタにはカンケーないね」
にっと飛が大胆不敵に笑みをこぼした。

To Be Continued