I become strong for you
「な…何してるの…!」
「君が昨日だか何時ぞやの不法侵入の犯人か?」
負傷した腕で、尚もルーファウスは銃口を飛へ向ける。
「我が神羅に侵入する輩は死をもって償ってもらおう。勿論、手引きをした筈のそこの君も一緒にな」
飛がを身体の後ろに隠す。
「………俺様のお嬢を傷つけようとするのは、やめてもらおうか………」
ぐっと喉元に突きつけた長い剣の切っ先が光る。
「ナイト気取りか?青年」
飛の額に突きつけられた銃口とルーファウス喉元に突きつけられた、透明の剣。
の身体を抱き締めたまま、飛が一筋汗を流す。
しゅっと音がし、ルーファウスの足元から白煙が溢れる。
「…なっ!?」
ぐっと飛の身体ごとが引っ張られる。
しっと口に指をあてたレノが次々に小さな煙玉を放り投げ、白煙で副社長室を充満させる。
「レノ…何考えてるの!」
「はー……これで俺も同罪だぞ、と」
エレベーターではなく、階段をただひたすら走りながら下を目指す。
「レノさん!ダメです、包囲されてます!」
タークス本部のある階の扉が開き、が顔を覗かせながら叫んだ。
小さな舌打ちをし、レノ達は一度タークス本部へと戻る。幸か不幸か、レノと、を除き、全員任務でタークス本部は誰も居なかった。
ずかずかと奥へ進み、何の変哲もない壁をレノは蹴る。
ずず、と機械音がし、そこにぽっかりと空間が現れる。
「……隠し部屋だ。とりあえず、ここに隠れてて…それから考えるぞ、と」
「…一つだけ方法があるわ」
がにっと笑う。
「レノが……ううん、とでもいい。私と飛の身柄を確保してルーファウスに引き渡せばいいの。幸い、あそこから連れ出したのがレノって事、ルーファウスは気付いてないし」
「ふざけるなよ、と。仲間を売るような真似してまでしがみついていたいような会社じゃないんでね、と」
飛を先に中へ押し込むとレノはの頭を軽く叩いた。
「……安心しろ、と。必ず俺達タークスが護るぞ、と」
だから、中に入っていろよ、とレノが呟き、は大人しく中へ入った。
小さな照明が一つしかないこの部屋の中で飛は何かを考えるように座っていた。
意外にといったら失礼にあたるだろうが、この隠し部屋には冷房が備えられていた御陰で二人が密着するように座っても暑さを感じる事はなかった。
外の音がまるっきり中へ入ってこないということは、自分達が喋っている声も外へは聞こえないという事だ。ただ、大声で喋るとその声は微かに耳に届いた。
「…ごめんなさいね、飛。巻き込んでしまって」
本当に申し訳なさそうには呟いた。
「……は全く悪くないでしょう。は、アッシュの死んだ理由を知りたい、ただそれだけなのだから」
膝を抱え、その膝の頭に自分の額をこつんとぶつけるとは嗚咽をあげる。
地面を通じ、複数の人間の足音がの身体に伝わり、と飛の身体が僅かに硬直する。
「レノ君、君。このタークス本部に隠しているんじゃないのかね、……君と不届き者を」
苛立っているらしい、ルーファウスの声は低く低く身体に響き通る。
どくん、どくん、と心臓が壊れるんじゃないかというくらい、激しく鼓動する。
壁が、こんこん、と叩かれていく。
空洞の場所を探している。
そして…。
ゆっくりと、前方の壁から明らかに今までとは違う音が響いた。
「開けろ」
まるで宝物を見つけた子供のような口調でルーファウスは後ろに控えている社員に声をかけた。
「そこはタークスが独自に調査した、神羅の機密情報が入っております。如何な、ルーファウス副社長といえ、社長とヴェルド主任の許可なしに開ける事は許されません。
……お引取り下さい」
ルーファウス達の行動を制したのは、だった。
「お引取りを!!」
「そんなに大事なものが入っているのか」
「社長とヴェルド主任以外の方が開けるのを禁じている機密情報です。開けたのが判れば副社長は勿論、開けたのを阻止しなかったとしてここに居る人間全部、消されてしまうほどに」
全部、真っ赤な嘘だ。
一瞬の沈黙の後、ルーファウスはくくっとくぐもった笑いをし、ゆっくりと分厚いドアを開いた。
逆光でルーファウスの姿が見えなくなる。
「まぁ、いい。君を失うのは神羅にとってよくない事でもあるからな」
声高な笑いと靴音が遠ざかり、は大きな溜息をもらした。
がこん、と扉がはずれ、そこからと飛が這い出るように出てきた。
「…大丈夫ですか?、飛さん」
「助かったわ……本当に有難う、……」
「いえ……」
ぐったりとが壁にもたれるように座ると深々と溜息をつく。
「主任とツォンさんが戻る前にさっさと俺達も帰るぞ、と」
が頷き、車のキーを持つ。
誰も居ないことを確認し、神羅ビルを出る。
駐車場に停めてある車に乗り込むとは車を走らせた。
「、お願いがあるの」
「何ですか?」
「………飛の家、監視されてる可能性あるわよね?だったら、お願い、私の実家へ行って欲しいの」
「そうですね……判りました」
「…コスタ・デル・ソルからコレルまでは近いからな、と」
にやり、とレノが笑った。
To Be Continued