I demand you. Eternally.
「コレル?」
運転席でハンドルを握ったまま、は後ろに座っているに問いかける。
「ええ。アッシュはコレル出身なのよ」
「それは…知らなかったです」
「だと思うわ。アッシュは何故かコレル出身っていうことを隠し通そうとしたんだもの。…何故だかは知らないけどね」
昔、アッシュに実家の事を聞いた事があった。何の気なしだった。
哀しそうに少しだけ笑って、僕は片道の旅費しかもらえなかったからね。神羅学校に入れなかったら死ぬしかなかったところなんだよ。
その時は冗談だと思っていたこと。
「コレルで何を確かめたいんだ、と」
「アッシュが神羅学校へ入る事になった経緯よ。
言っちゃ悪いけど、神羅学校って身元がしっかりしてないと入れないし、それこそ神羅にコネでもなきゃ入れないところって言われてるのよ。そんなところにアッシュが何のコネもなく入れたと思って?」
言いながら、はゆっくりとシートに背中を沈める。
タークスに入ってからも一度としてコレルへ里帰りしようとはしなかったアッシュに何も不信感は抱かなかった。単にコレルは遠くて、簡単に里帰りできるような場所じゃないと…ただ、そう思っていたから。
「飛は?飛はそこらへんの事、何か知らない?」
急に話しかけられ、飛は、え?という表情をした後、表情を曇らせた。
知らないことはない。
とは違う時間を飛はアッシュと共有してきた。それは。
……も知らない、長い時間。
「で、どうするんだ、と。一度、の実家へ帰るのかな、と」
はっとしては顔をあげる。
「え、ええ。お願い……準備とかも必要でしょ?」
何度か行ったことのあるの実家へとは車を走らせる。
いきなり、車をスピンさせ、は小さな舌打ちをする。
「どうした!?」
「いきなり狙撃されました、先輩!」
車に当たらないように地面だけを狙って銃弾が飛んでくる。
「…もう追いついたのかよ、と」
忌々しそうに舌打ちをしてレノは遠くを見る。
「何…!?」
「ルーファウス直属部隊だぞ、と」
この車の硝子は防弾硝子ではない。一発でも喰らえばそれは即ち、死に繋がる。
「!絶対に当てるなよ、と」
「りょ、了解です!」
無茶なことを言う、と本当は思う。
だけど。
「レノ、散弾銃、あるでしょ?貸して」
「トランクに入ってるぞ、と」
ガシャン、ガシャンと散弾銃を組み立て、サンルーフを開くとは顔だけを出して照準を合わせる。
すれすれに銃弾が飛ぶ中、はゆっくりと深呼吸をして、はるか遠くを狙い、引き金を引いた。
「ショット!」
「…なっ!」
「…化け物ですか、と」
とレノが同時に溜息を漏らす。
銃弾が飛んでくる方向だけで相手を探し出し、命中させるなんて、早々簡単にできるものではない。
薬莢を落としては再び照準をあわせた。
一発、二発と弾がどんどん飛んでいく。
そしてそのうちの一発が。
ガキィンッ
「……な」
一発当たると二発も三発も同じだった。
が放った銃弾にぶつけるように相手が発砲し、お互いの銃弾がめり込むような形で地面へと落ちていく。
「ムカつく…!」
いきなり、車が急ブレーキをかけた。
「何!?」
僅かによろけたの足を飛がしっかりと掴む。
目の前に現れた、襟を立てた真っ黒い軍服に身を包み、顔がわからないように目深の帽子をかぶった一団。
銃を突きつけられた四人が車を下りる。
「これが…」
「ルーファウス直属部隊…」
ごくり、と喉を鳴らす。
威圧的な態度で何もいえなくなる。
ゆっくりと真ん中の男がの眉間に銃の照準を合わせる。
「…チッ!逃げろ、!」
真ん中の男に斬りかかった飛がをレノの方へ突き飛ばした。
帽子を剥ぎ取られた男が慌てて顔を掌で覆う。
が。
さらさらとれ落ちる銀髪と、その見覚えある顔に思わずは息を呑んだ。
「アッシュ…!?」
飛がの腰の辺りを掴んで車に押し込み、自分も乗り込んだ。
「走らせろ、嬢!」
「はっ、はい!!!」
「アッシュ!!アッシュ!!!」
砂煙をあげて車が走り去る。
「……どう致しますか、グレイ」
「いい、放っておけ」
飛ばされた帽子を再びかぶってグレイと呼ばれたその人物は踵を返した。
「ルーファウスには僕から報告しておく」
どのルートを通ってきたのかは判らない。が、気付けば車は滑り込むように家の敷地内にあった。
銃弾を受け、車にところどころ穴が開いている。
この状態で誰も負傷する事無く、家につけたのは既に奇跡の範疇だ。
「知ってたのね、飛」
父親への挨拶もそこそこに達はだだっ広い客間のソファに疲れたように各々座り込んだ。
その中で放たれる、小さな侮蔑の言葉。
「アッシュが生きている事、知っていて騙していたの?」
「騙して何か、いないですよ」
幾分か冷静さを取り戻したのか、飛がに対するいつもと変わらない口調で言葉を紡ぐ。
「これは……俺とアッシュの間での約束事でしたから。…ただ、出てくるのが早すぎた…」
「何で黙ってたの!?そんなに……そんなに私が信用なかった!?
滑稽だったでしょうね!アッシュが……アッシュが生きているって知ってて、私があれだけ動いてるのを傍で見てて……!!」
束ねた髪の毛を振り乱しながら、はその場に泣き崩れる。
「信用、してたのよ……私……!!」
誰も信じられない世界の中で、唯一アッシュを失った哀しみを共有できる人だと思っていたから。
「………私は何のために……神羅を敵に回そうとしたのか、判らない!!」
ずっと肌身離さずつけていたペンダントを引きちぎると、は乱暴にそれをテーブルの上へ投げつけた。
かしゃん、と小さな音がしてテーブルの上をダイヤモンドのペンダントヘッドが滑り、レノの前で停止する。何も言わず、唇をかみ締めたまま、は部屋を飛び出した。
思わず、が腰をあげ、を追いかけようとするが、レノがその手を掴んだ。
何も言わずに首を左右に軽く振る。
「何を言うつもりだ、と。飛は悪くない、とか言うつもりなのかな、と」
「だって…飛さんは……」
「厳しいことを言うようだが……俺達は飛でもなければでもないんだぞ、と。いわば部外者の俺達がどんな言葉で慰めるつもりなのかな、と」
が押し黙ってソファに座り込んだ。
「…ん?この中身、マイクロチップか、と」
「……アッシュがに託した、最後の奥の手だ。……まだに真相は教えられないが、……そうだな。ここからは俺様の独り言だ。聞きたくなかったら出て行ってくれ」
レノからペンダントヘッドを受け取って、飛は俯いていた顔をゆっくりとあげて真っ直ぐ前を見やった。
To Be Continued