I give glory to your favorite floral art in a secret garden and will do a tea party.
金色で肩のところで切り揃えられた髪の毛を揺らしながら、まるで子供のように花の間を駆け抜けるに目を向け、飛は軽い溜息をつく。
飛の経営する宝石店の裏には温室があり、その中では多種多様の花達が綺麗な花びらを満開にしていた。
「俺様はあんたまで招待した覚えはないんだがな」
「は少々方向音痴だからな。俺が連れて来ないと永遠に迷ってるぞ、と」
温室の中の一室にある、テラスに設置された白いテーブルの上には、桜が刺繍されたテーブルクロス。その上には中国茶器一式といくつかのお菓子が並べられている。
週に何度かは飛の家の、この温室で家で飾る花を摘んでいく。そのついでに飛の淹れてくれたお茶を飲み、懐かしい話に花を咲かせ、満足して帰っていくという生活を送っていた。
そして今回。がも呼びたいというので飛は驚きながらもそれを承諾したのだ。
そしたら。
そうしたら何故か。
こいつまでおまけでついてきた、という次第だ。
「……レノとか言ったな」
「何だ、と」
「唐突に尋ねるが、の事をどう思っている?」
「………偉そうな女。ただし、その偉そうなのはちゃんと行動に伴っているからむかつかない」
「あっそ」
自分で尋ねておいてなんだが、余り興味なかったわ、すまんな。とでも言い出しそうな勢いで飛は呟いた。
「……」
「何?飛」
と一緒に持ち帰る花を吟味していたが唐突に飛に名前を呼ばれ、僅かに眉根をひそめた。
「申し訳ないんですが…部屋にお菓子を忘れてきてしまいましてね、とってきていただけますか?」
「ええ、いいわ」
ちょっと待っていてね、とに声をかけると「うん」と素直な声がし、はその場を離れた。
「…俺様に何か聞きたいもんがあるんだろう?」
「よく判ったな、と。……しっかし、と俺とであんなに態度があからさまに違うと、俺もちょーっと哀しいぞ、と」
「何で俺様がお前如きに敬語を使わなきゃいけないんだ」
ふん、ときっぱりと言い放つ。
「あんたはどうなんだ?、と。に対して特別な感情でも……」
だん、とテーブルの上の食器が揺れる。
ごくり、とレノが思わず唾を飲んだ。
逆鱗に触れたか?と飛の顔を伺い見るがそうではないらしい。
その瞳の先にあるものは、怒りなんかじゃなく…。
「はアッシュの恋人だ。今も昔も、これからもずっとな。
がアッシュを忘れる事がない限り、俺様が割り込む余地はない」
きっぱりと飛は言い放つ。
「作っておいて忘れるって……一体どういう神経してるのよ、飛は…」
ぶつぶつと呟きながらは慣れた足取りで二階の飛の部屋へ向かう。
飛の部屋のサイドボードの上に飾られた、柔和な笑みを湛える女性の写真。その隣に飾られているのはタークスに入る前の、アッシュの写真。
軍事学校の制服だと思われる服に身を包み、ピースをして写っている。
今も尚片付けられていない、邸のアッシュの部屋の中にこれと同じ写真がある事をは知っていた。
「…この写真の片割れだったのね」
同じ日付に思わずは笑みを浮かべる。
アッシュの部屋にある写真は少し戸惑った表情を浮かべた飛の写真。そして、ここにあるのは満面の笑みの……。
「少し妬けるわ」
小さなテーブルの上に置かれた蓮の花を象ったお菓子の入っている皿を持ち上げ、は部屋を後にした。
庭に出ると相変わらずレノは不機嫌そうにテーブルに片方の肘をついて無愛想にしていた。
「飛、これでよかった?」
「ああ、これです。有難う、」
受け取る飛の姿は一枚の絵のように綺麗で無駄がなかった。
「さんもそろそろお茶にしませんか?」
「あ、はい」
花の香りを身体に纏わせてはの隣へ座った。
きゃあきゃあと可愛い声を出しながら、注がれていく琥珀色のお茶を楽しむ。
「……ほら」
「何だ、俺の分もあるのか、と」
半分皮肉を交えながらレノは出されたカップを受け取る。
「一応客だからな」
一時間ほどお茶を楽しみ、飛は使い終わった茶器類を片付けに店の方へ戻っていく。
それを見計らってか、がレノに話しかける。
「…飛、レノの事、気に入ったようよ」
くすくすとテーブルに残されたお菓子を口の中へ放り込む。
「は?」
あの態度の何処が気に入ってる証拠だ、と言わんばかりにレノが眉間に皺を寄せる。
「あのね、飛は素直じゃないの。…それに、男の名前なんて死んでも憶えたりしないわ」
顧客名簿には外見の特徴を書いているくらいなのよ、とは笑いながら言う。
「それを最初、レノって呼んだり…レノと何か話をしたり、お茶を出したりするなんて気に入ってなきゃやらない事なのよ」
基本的に男を近づけるようなタイプじゃないの、飛は。とも言葉を続け、お菓子を口へ放り込んだ。
「私が知っている限り、名前を呼ばれて、お茶も出してもらえて、屈託のない表情を見せてた男性は一人しか知らない」
アッシュ=フレイビート。
「……アッシュほどじゃなくても、レノも飛のお気に入りって事なのよ」
「ふーん」
(…どうせ、パシリにしてやろうとか思ってるんだろ、と)
…しかもその考えが当たっている事は数日後判明する。
夕暮れになり、抱えきれないほどの花を分けてもらったは楽しそうにレノと一緒に帰っていった。
「帰らなくていいんですか?」
「帰っていいのかしら?」
「……」
「どうして、私には敬語で話をするの?私の方が年下よ?に…まあ敬語なのはともかくとして、何で私は敬語を使われているのかしら?」
にっこりと妖艶な笑みをは浮かべる。
「…は、アッシュの……婚約者、で」
途切れ途切れに飛は言葉を紡ぐ。
「だから?」
う、と言葉を詰まらせる。
レノに言った言葉をそのまま繰り返す事が出来れば、どれだけいいだろう。と飛の頭の中で言葉がぐるぐると目まぐるしく回る。
彼女にどれだけの恋愛感情を抱いても、無駄だという事は判っていた。
だって
だって、彼女の中には。
アッシュのことしかなくて。
「まぁ、いいわ。……行くわよ、飛」
くるり、と踵を返し、向かっている先は飛の家。
「!?」
「飛。……昔は昔、今は今、よ?そんな事より、夕飯は美味しいものがいいわ」
「…御意」
ふ、と柔らかな笑みをこぼしての後を追うように飛も家の中へと入っていった。
FIN