A flower of love
両手に一杯の花を抱えたがタークス本部へと戻り、はその花の量に驚愕した。
前が見えないほどの量に咽ぶような花の香り。
「どうしたの、それ」
「あ、帰りに馴染みの花屋さんに戴いたんです。もしよかったらも…」
ばさっと白い紙の上に花を置くと大よそ半分に分けるとそれをに手渡した。
「…この花…」
「知ってるんですか?数年前まで野花だったらしいですよ」
「…え、ええ。ちょっと、ね」
コスタ・デル・ソル。
邸。
「アッシュ」
中庭は館の中心にある。
中庭といっても植物園くらいの大きさがあるし、綺麗に花が咲き誇っていられるのも、このアッシュの御陰なのだが。
「また土いじりしているのね。もう…」
「『少しは私のことも構ってよ』でしょう?判ってますよ」
くすくすとアッシュが笑い、綺麗に咲いていた花を刈り取る。
その様子をじぃっと見ていたが不思議そうにアッシュが刈り取った花に手を伸ばした。まだ綺麗に咲いているその花を別に無造作に扱う訳ではなく、咲いているときと同じような扱いで紙にまとめるとアッシュは立ち上がった。
「ちょっと付き合っていただけますか?」
「いいわ!」
手を繋いで、一緒に歩く。
門を出て暫くすると土手があり、綺麗な小川が流れている。
夕陽が小川に映り、きらきらとしている。
「知ってます?花をね、上流から流して下流まで沈まないで居たら願いが叶うそうですよ」
「……沈むものなの?軽いじゃない」
「やってみます?」
はい、と一輪渡され、はしゅっと花を小川へ投げた。
ぱしゃ、と音がし、ゆっくりと花が夕陽の映る小川を下流へと流れていく。
中流まで行ったとき、それはゆっくりと沈んだ。
「…あっ」
本当に悔しそうに小さく頬を膨らませてはアッシュを見上げた。
続くようにアッシュが花を投げる。
見えなくなるまで、花は水面を滑るように沈む事無く流れていく。
「ずるいっ」
ぷぅ、と膨らませ、アッシュから花を奪うように取るとは河原まで降りてゆっくりと花を投げた。
……僕はもう少ししたら死ぬと思う。
……死ぬ…?違う、殺されるんだ、僕は。
……僕はもうすぐ、神羅カンパニーに盾突く。魔晄炉のあり方について。魔晄炉の存在について。
……君は、君は……。
「アッシュ!見て!」
はっとしてアッシュは下流へ目をやった。
手持ちの花が残り少ない中、一輪の花が小川の中心を下流へ流れていく。
「………何を願ったんです?」
「アッシュと一生一緒に居られますように、よ」
夕陽のオレンジ色に照らされて、栗色の髪の毛が綺麗に輝く。
「…ねえ、、キスしていい?」
……一緒に居てあげたいんだ。
……本当に一緒に居てあげたい。
……君を、ずっと見ていたいよ。
……ごめん、ごめんね、。
軽く触れるだけのキスを何度も交わす。
「アッシュは…何をお願いしたの?」
「……の幸せを。総ての人間が不幸になっても、貴方だけの幸せを」
そして、僕が居なくなっても強く生きていけるだけの力を。
貴方を愛しているからこそ、貴方を抱き締めていたいからこそ。
貴方だけを愛し続けるために。
「あの沈んだ花達もいずれは下流へ行くのね」
「ええ。最後の最後まで頑張るんです」
最後の花びらを惜しむように、アッシュはの足元にあった花を取り上げた。それをと一緒に小川へ放り投げる。中心へ向かって、下流へ向かってどんどん流れていく。
「ずっと一緒に居られるといいね」
「そうですね」
(…アッシュのうそつき…!!)
「?」
「ううん、有難う。」
花を抱きかかえ、はタークス本部を出て行った。
あの時、アッシュが何を望んだのか。
あの時、アッシュは自分が居なくなることをしっていた。
もう一度、花を投げてみようか。
もう一度、だけ。
FIN